9 言の葉
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「黒羽、魚食べたよ」
「ホンマか!やっぱ俺の予想通りやったな」
服部の前にリクエストされたカツ丼を置く。ランチ終わり、メッセージでわざわざ今日はカツ丼がいいと送ってきた。
「リクエスト、初めてだよね。カツ丼好きなの?」
「まぁ好きやけど、ちょっと弦を担ご思うてな」
「弦を担ぐ?なんか勝負しに行くの?」
「ああ。そんなとこや」
「ふぅん」
服部の隣に座って勉強道具を広げる。今日は古文。得意かどうかはおいといて、好きな分野だ。
「花の色はうつりにけりな、いたづらに、わが身世にふるながめせしまに…」
「小野小町やな」
「すご。なんで分かるの」
「有名やんけ。百人一首の中の1つや」
「探偵って何でも知ってんだね」
「意味、わかるか?」
「えっと…花の色はむなしく色あせてしまった。長い雨が降っている間、思い悩んでるうちに…かな」
「大体合うとんで。この花っちゅうんは古典では桜の意味でな。ほんで、ここの世は世代と男女の仲の2重の意味の掛詞。さらにふるも、雨が降ると経過、歳をとる私っちゅう2重の意味や」
「へぇ。2重の意味…」
ひとつの言葉に色んな思いをのせるのと同じようなものか。今日の姉のように。
「服部は、好きな人いる?」
「なんや急に」
「好きな人がいるってどんな感じなんだろって思って」
「ヤイバーはどないしてん」
「ヤイバーへの好きは恋じゃないじゃん。それくらいはわかるよ」
「なのに彼氏や言うとんのか。やっぱ自分変わっとんな」
「だってかっこよくない?ヒーローの彼女」
「そうかぁ?探偵の彼女の方がミステリアスでええやんけ」
「遠回しに告ってる?」
「な訳あるかアホ」
今日も綺麗に完食した服部。美味かったと満足気なその横顔もすっかり見慣れたな、なんて思っていたのに。次の日も、その次の日も。彼がお店に来ることはなかった。
(電話にはでないし、メッセージも未読…か)
「美衣、おはよう」
「お姉。おはよう」
黒羽も、まだ店に来ない。姉は何も言わないけど、きっと寂しいんだと思う。いつも通りを振舞ってるけど、ふとした時に切なげな顔をするから。
(友達だと思ってたけど、私、服部のこと何も知らないんだな…待つことしか、出来ない)
「ご馳走様」
「え?もう食べないの?半分以上残ってるけど」
「お腹すいてなくて。ごめんね」
「…お姉、体調悪いでしょ。熱測って」
「平気だよ。これくらい」
「駄目。ほら、体温計」
「…37.8」
「今日は休もう。薬と胃に優しい物買ってくるから」
「駄目!お店は休めない!黒羽さんが来るかもしれないじゃない!」
そう言って、姉はハッとした顔をして俯く。気持ちは分かるけど、こんな状態で無理はさせられない。
「黒羽には私が連絡しとくから。お姉は休んで」
「…うん。ごめんなさい」
「謝ることないよ。買い物行ってくる」
やっぱり待っているんだ。黒羽が来るのを。きっと姉の事だ。待ってると言った手前、連絡もしてないんだろう。
(えっと…お姉が体調不良で今日は店休み…送信っと)
黒羽にメッセージを送って家を出る。もうすぐ夏休みは終わるけど、夏はまだ終わる気はなさそうだ。
(あっつ…無理。溶ける)
照りつける日差しに負けそうになりながら、ふと目に止まったショーウィンドウの中のテレビ。
「怪盗でありながら絶大な人気を誇るキッド。今回のショーも見事でしたね。では、その様子を1部VTRでどうぞ」
アナウンサーのがそう言うと、一面の星空が映し出される。そして霧がかかったかと思うと、どこからともなく、人影が現れた。白いマントに白いスーツ。白いシルクハット。
(…そっくりだ。初めて会った時の黒羽に…)
「あ!喫茶店のお姉さん!」
「え…あ、あなた、コナンくんのお友達」
「はい!吉田歩美です!」
「歩美ちゃん。こんにちは。お花持って、どこに行くの?」
「お見舞いだよ。コナンくんの」
「え?コナンくん、どこか悪いの?」
「骨折しちゃったんだって。事件に巻き込まれて」
「え?!平気なの?」
「うん。足を骨折したからしばらく動けないけど、他は元気だって言ってたよ」
一緒にお見舞いへついて行きたいとこだけど、お姉を置いてはいけない。歩美ちゃんに伝言を言付けて、家へと返った。
言の葉