9 言の葉
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「こんにちは。美衣お姉さん」
「コナンくん!いらっしゃい。久しぶりだね」
珍しく朝からコナンくんがやって来た。ちょび髭のおじさんと可愛い女子高校生を連れて。
「ほー。雰囲気のいい店じゃねぇか」
「本当。昭和レトロって感じで素敵ね」
「ありがとうございます。こちらのお席にどうぞ」
「紗奈お姉さんも、こんにちは」
「こんにちは、コナンくん。また来てくれてありがとね」
「こりゃまた可愛らしいお嬢さんだ…!おほん!どうも。コナンがお世話になってます。毛利小五郎と申します。なにか困り事がありましたら、是非事務所まで」
「まぁ、探偵さんなんですね!名刺ありがとうございます。コナンくん、とてもいい子でいつも感心するばかりです。きっと日頃の環境が良いおかげでしょうね」
「いやぁ、そんな。当然のことをしてるだけですよ。わっはっは!」
あれが噂の毛利小五郎。とても名探偵って感じはしないけど、能ある鷹は爪を隠すってやつだろうか。
「美衣、バナナジュースとモーニング3つずつお願い」
「あいよ」
「あの、作るところ見ててもいいですか?コナンくんに料理すごく上手だって聞いて。勉強させてもらいたくて」
「どうぞ、好きなだけ。気になることあればなんでも聞いてください」
「わぁ!ありがとうございます!」
「蘭姉ちゃん、僕も見る」
「コナンくん。お父さんは?」
「紗奈お姉さんにすっかり鼻の下伸ばしてるよ」
「もう…お父さんったら」
2人の視線を感じながら、モーニングとバナナジュースを作る。見えやすいようになるべくカウンターの方を向いて作業する。
「あ、練乳も入れるんだ…なるほど。あ、今のなんだと思う?コナンくん」
「きなこだね」
「へぇ!きなこ!今度やってみよう」
仲のいい姉弟っていうより、幼馴染って感じがするのは。きっとコナンくんが居候だからじゃない。
「はい。完成」
「美味しそう!ありがとうございます。早く食べよ、コナンくん」
「うん」
「あ、私が運びますよ。どうぞお席に」
「はい。お父さん、すごく美味しそうだよ」
「おお!こりゃ美味そうだ!」
「すごく美味しいですよ。うちの妹が作るご飯は世界一ですから」
「お姉、ハードル上げないで」
「いただきます。…ん!美味しい!」
「だな!コナンが行きたがるわけだ」
「ね。美味しいでしょ?」
そんな会話を聞きながら、洗いものを片付ける。次々にお客さんが来はじめて、あっという間に満席。
「繁盛してるな。まぁ可愛いウエイトレスにこの美味さなら納得だ」
「教えてくれたコナンくんに感謝だね」
「僕も快斗兄ちゃんに教えてもらったんだけどね」
「ああ、新一の従兄弟の。ほんとコナンくん、新一の周りの人達と仲良しね」
「あはは。まぁね」
「おっと、また客だ。食い終わったし帰るぞお前達」
「あ、じゃあ私ちょっとトイレ行ってくる」
おじさんが会計に、女子高生がトイレに立つ。私は普段はしないテーブルのバッシングに向かい、コナンくんに話しかける。
「ね、コナンくん。あのお姉さんの事好きなの?」
「えっ。ど、どうして?」
「なんとなく。2人で話してる時の雰囲気が姉弟って感じしなかったから」
「う、うん。実は、そうなんだ」
「やっぱり。頑張れよ、少年」
「あ…うん。ありがとう」
拳を作ってコナンくんの方に向けると、小さな拳をこつんとぶつけてくれる。食器とグラスを乗せたおぼんを持ってキッチンへ戻った。
「コナンくん、お待たせ。行こう。ご馳走様でした」
「ありがとうございました。またお越しくださませ」
コナンくんも恋をしているのか。黒羽といい、みんな青春だ。好きな人がいるってどんな感じなんだろう。
「いらっしゃいませ。あ、黒羽さん!」
「こんにちは」
「カウンターが空いてますので、どうぞ」
「ありがとうございます」
いつも通り、黒羽がやって来てカウンター席に座る。なんだかいつもより静かだし、浮かない顔をしている。
「黒羽さん。何かありました?顔色が優れないようですが」
「え?ああ、いや、何も。ランチのAセットでお願いします」
「そうですか…。美衣、ランチAセットひとつ」
「あいよ」
明らかにいつもより元気がないけれど、話す気はないようだ。出来上がったランチセットを食べ始めても、その顔は晴れない。
段々とお客さんがはけてきて、ついに黒羽だけになる。お姉が心配そうに、ひとつあけてカウンター席に座る。
「黒羽さん。本当に大丈夫ですか?体調が悪いとか」
「いえ、元気なんです。すみません」
「そんな。謝って欲しいわけじゃ…」
「…黒羽。その小鉢美味しかった?」
「え?ああ、この南蛮漬けか。美味かったぜ」
「それ魚だったの」
「どぇ?!ま、まじかよ?!全然気付かなかった…」
「黒羽、魚嫌いなんだって」
「え、そうなの?じゃあ嫌いなものが食べられたってことですか?凄いです」
「あ、いや、そんな。大した事じゃ…」
「何言ってんの。嫌いな物食べれるってすごいよ。めちゃくちゃ凄い。だから黒羽なら何があっても大丈夫」
黒羽の瞳が、揺れる。そしてなにかの意を決したように、笑った。
「サンキュ、美衣。また絶対、飯食いに来るからな」
「うん。待ってる」
「紗奈さん」
「は、はい」
「今度、僕がここに来たら…その時は、またデートに誘わせてください」
「…はい。もちろん」
「ありがとうございます。ご馳走様でした。今日はもう、帰りますね」
「あ、あの!黒羽さん!!」
お金を置いて立ち上がる黒羽を姉が呼び止める。きっと姉は今、私と同じことを思ってる。
「…必ず、来てくださいね。ここで、待ってますから」
「はい。必ず」
しっかりと頷いて、黒羽は帰って行く。もう二度と会えないのでは、そんな予感が杞憂であるといい。そう思いながら、彼の背中を見送った。