8 タイムリミット
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ー酢豚、めっちゃ美味かった。おおきに
お風呂から上がって髪を乾かし、ストレッチを終えてスマホを見ると服部からそうメッセージがきていた。
ーよかった。酢豚にパイナップルはあり?なし?
ーいらん。けど、美衣が作るやつならパイナップル入りも食ってみたい気する
また美味ければどっちでもって返ってくるかと思ったのに。予想外なその答えに嬉しくなる。
ーじゃあ、今度作る
ー頼むわ。これから夏休み終わるまで毎日行くつもりやから、休みの日は教えてくれ
夏休み。そうか、夏休みが終われば服部は大阪に帰ってしまうんだ。今みたいにお店に来ることはなくなる。
(たこ焼き、早く極めなきゃ)
寝てる場合じゃないと髪をまとめてエプロンを着て、キッチンへ向かった。
「オメー、夜な夜な睡眠時間けずってまで料理してんだって?」
「…お姉に聞いたの?」
「そうだよ。この店継ぐって決まった時も同じような事してて無理して熱出てぶっ倒れたことあるから心配だって言ってたぜ」
「すごい。そんなことまで話すんだ、黒羽に」
「え。ま、まじで?すげぇの?」
「うん、すごい。お姉はああ見えて常連さんにもプライベートな事話さない」
「いや実はさ、この話も電話で聞いて…つーのも、初めてかかってきたんだよ、この前!ぶっちゃけいい感じじゃね?」
「間違いなくいい感じ」
ぐっと親指を立ててそう言えば、嬉しそうに笑う黒羽。忙しくしてると気にならないのに、暇になると急に眠気がくる。
「ふぁ…」
「眠ぃのか?今日はもう店閉めて休んだ方がいいんじゃねぇの?」
「大丈夫」
「じゃあ今夜はちゃんと寝ろよ。ただでさえ暑くて体力奪われやすいんだから」
「うん。ありがと、黒羽」
でも時間がない。服部が帰ってしまうまでに納得のいくたこ焼きを作らなければ。黒馬には悪いけど、今夜もやる気満々だ。
「ふぁ…」
「なんや。寝不足か?」
「あ、ごめん。大丈夫。今日の南蛮漬け、どう?」
「めっちゃ美味い。これなら黒羽も食えるんちゃうかってくらい美味い」
「黒羽、南蛮漬け嫌いなの?」
「いや、魚があかんらしい」
「確かにランチもいつも肉系だ。嫌いって知ると食べさせてやりたくなるなぁ」
「料理人の性ってやつやな。こことここ、スペルミス」
「あー、ほんとだ」
消しゴムで指摘された箇所を消す。既に今日のご飯も食べ終わった服部が、頬杖をついてこちらを見てる。
「いつもより初歩的ミスが目立つし、集中出来てへんし、欠伸まで出る。完全に寝不足やな。寝る間も惜しんで何しとってん」
「…たこ焼きの練習」
「はぁ?アホちゃうか。んなもん、空き時間にやれや。なに睡眠時間削ってんねん」
「だって服部、夏休み終わったら帰っちゃうじゃん。時間ないから」
「アホ。確かに帰るけどな。やからってそれに合わせようなんて思わんでええ。あんたの飯食うためやったら、いくらでも飛んで来るっちゅうねん」
「…大阪から飛んで来るんだ。そんなに、好き?私のごはん」
「ああ。大好きやで」
胸がじんわりと暖かくなる。嬉しさを噛みしめてると、何も言わない私に服部は少し恥ずかしそうに言う。
「…飯の話やからな?」
「わかってるよ。だからこんな喜んでる」
「普通逆ちゃうかそれ」
「でもやっぱり、夏休み終わるまでには食べさせたい。家庭教師のお礼だし」
「…まぁ、そらあんたの勝手やけど。体調管理は何事においても基本中の基本。ほんで、睡眠はその中でも初歩の初歩や。まさかそれを怠って仕事や勉強のパフォーマンスが落ちるなんてアホみたいなこと、せぇへんよな?あんたなら、空き時間でちゃーんと納得いくもん作れるやんな?」
「…服部、やっぱり先生向いてるよ」
「そらおおきに」
私の性格をよくわかってる。心配されるより、そうやって煽られると意地でもちゃんと寝て空き時間のみで納得のいくたこ焼きを作ろうって思ってしまった。
(悔しい。けど、そうだよね。勉強見てもらってるのに欠伸も、服部に失礼だ)
「あ、美衣。おかえり」
「ただいま。お姉、もう眠いからお風呂先にいい?」
「もちろん。お風呂で寝ないようにね」
「うん。わかってる」
「…すごい。てっきり今日も夜遅くまでやるのかと思った。黒羽くんに知らせなくちゃ」
夏休みが終わるまで、あと3週間。頭の中でたこ焼きを食べて喜ぶ服部を想像しながら、眠りについた。
タイムリミット