8 タイムリミット
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(服部、遅いな)
いつもならとっくに来てる時間。でも今日はまだ彼の姿はない。連絡してみようかとスマホを手にした時、ちょうど電話が鳴った。
「もしもし」
「美衣、すまん。ちょお事件に遭遇してもうて、今日は行けそうにないわ」
「そっか。わかった」
「ほな、また明日な」
電話の向こう側から聞こえたパトカーの音と人の喧騒。小さくため息をこぼして、服部用のご飯をタッパに詰め替える。
(もうお腹いっぱいだし、明日の朝にでも食べようかな)
服部が来ないならお店にいる必要はない。タッパを持って家に降りると、私に気付いたお姉がキッチンから顔を覗かせる。
「あれ、美衣。もう服部さん帰ったの?」
「なんか事件に遭遇して今日は来れないって」
「事件?!だ、大丈夫なの?」
「解決する側だから大丈夫なんじゃない?」
「解決する側?」
「探偵なんだって」
「へぇ。探偵なんだ。すごいのね」
「それよりお姉、キッチンで何やってるの?」
「あ…ちょっと、卵焼きを作ろうかなって」
気まずそうに視線を泳がせる姉。不思議に思いながらもキッチンの方へ。
「小腹空いたなら服部用に作ったご飯あるけど」
「ち、違うの。お腹は空いてなくて…その、ちょっと練習しようかなって」
「練習?卵焼きの?」
「うん…」
「…ははーん。さてはお姉、黒羽に食べさせたいんだ?」
「え?!や、やだ!そんなっ…ことは…」
「照れなくていいって。黒羽、絶対喜ぶよ。練習頑張って。手伝えることあったら言って」
「美衣…!ありがとう!」
ああ見えてかなり不器用な姉は自らキッチンに立つことなんてまずない。恋って凄いなと思いながらお風呂に向かおうとした時、チャイムがなる。
「誰かしら。こんな時間に」
「私出るよ。はい。どちら様ですか」
「夜分遅くすみません。警察の者ですが」
「警察、ですか」
「はい。近くで事件がありまして、不審者の目撃情報を調べてるんです」
「特に何も見てません」
「そうですか。ご協力ありがとうございました」
「あの!ちょっと待ってください!」
「え?」
インターホン越しに呼び止めて、テーブルに置いたタッパを引っ掴んで玄関へと急ぐ。ドアを開けると警察の人はちゃんと待ってくれていた。
「お仕事中にすみません。その事件現場、もしかして服部って人がいませんか」
「え?ああ、服部くん?いますよ。お知り合いですか?」
「友達なんです。今日ここに来る予定で、その途中で事件に遭遇したって言ってたので」
「そうだったんですね。何か伝言ですか?」
「伝言というか、これを渡してほしくて」
「わかりました。あなたのお名前は?」
「野々村美衣です」
「はい。では渡しておきますね」
「すみません。ありがとうございます」
優しい刑事さんでよかった。無事に服部の手元に渡ることを祈りながら、ドアを閉めた。
「美衣、なんだった?大丈夫?」
「うん。服部の事知ってる刑事さんだったからタッパ渡してもらうよう頼んだ」
「そうなの。事件ってこの近くだったんだね。怖いなぁ」
「大丈夫だよ。服部がきっと解決してくれるから」
「そうね。ああ!また失敗しちゃった!」
「先、お風呂入るね」
明日の朝の分の卵がなくなる勢いだけど、せっかく頑張ってる姉に水を差したくない。メニューを変更しようと頭の中で冷蔵庫の中身を思い出しながら、お風呂へ向かった。
「目暮警部。近辺の聞き込みしてきましたが、不審人物の目撃情報はありまんでした」
「ん。ご苦労。おや?高木くん。なんだねそのタッパは」
「あ、これは服部くんに渡して欲しいと頼まれまして」
「呼んだか、高木はん」
「服部くん!これ、君にだって。野々村美衣さんから」
「美衣から?お、飯やんけ!有難いわ〜!」
「美味しそうな酢豚だね。お腹空くなぁ」
「めっちゃ美味いで。今度高木はんも店行ってみ」
今日は彼女のご飯にありつけないと思っていたから、予想外の差し入れにテンションが上がる。
「さっさと解決して飯食わんとやな」
「もしかして、この前デパートで待たせてるって言ってた子かい?」
「ああ、せやで。なんでわかったん?」
「なんとなくね。夏休みが終わったらなかなか会えなくなるだろうし、今のうちにたくさん会っておきなよ」
「…そうやった。夏休みって…あと1ヶ月もないやんけ!今のうちにたらふく食うとかな」
「あ、そっち?」
すっかり忘れてた。自分は夏が終われば大阪に帰らなくてはいけないこと。残りは毎日通ってやろうと、心に決めた。