3 西の探偵
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「あ、やば。油なくなる。ストック切らしてたの忘れてた」
「じゃあ私買ってくるよ。この時間帯は暇だし」
「ごめん、お姉。ありがとう」
モーニングの時間帯も終わり、昼時までのこの時間は滅多にお客さんは来ないけどゼロではないから、料理担当の私が抜けるわけにはいかない。ドアの開く音がして、顔を上げる。
「いらっしゃいませ」
「…コーヒー」
「はい。コーヒーですね」
入ってきたのは色黒の恐らく同い歳くらいの男。迷わずカウンターに座り、何故かこっちをじっと見つめている。
「お待たせしました」
「あんたが紗奈か?」
「え?いえ、紗奈は私の姉ですけど」
「姉やと?どこにおんねん」
「今は買い出しに。姉になにか用ですか」
「俺の友達誑かしとるんとちゃうか思うて見に来たってん」
「は?誑かす?それはない。お姉に限ってそんな事ありえない」
「はぁ?そんなんわからんやろ」
「わかる。お姉はそんな人じゃない。その友達が勝手に勘違いしてるだけでしょ、どうせ」
「なんやとぉ?」
姉は人の心を弄ぶようなこと、絶対にしない。誰よりも近くにいる私が一番知ってる。それに何より、私と姉は四六時中一緒なのだから。
「くだらないこと言ってないでさっさとコーヒー飲んで。冷める」
「くだらないことやてぇ?客に向かってえらい口の利き方やんけ」
「お姉の偵察目的で来た人を客とは思わない」
「くそ生意気な…美味っ。なんやこのコーヒー、めっちゃ美味いやんけ」
「コーヒー以外も美味いよ」
「ほー。大した自信やな?ほな、ナポリタンもらおか」
「わかった」
ガラ悪い割に素直な人だと思いながら、ナポリタンを作る。相変わらずじっとこちらを見ていたけど、目の前に料理を置いた途端、すぐにそちらに釘付けになった。
「う、美味そうやんけ…!」
「美味いよ」
「いただきます。…ほ、ホンマに美味いんかい!そこは不味くあれや!」
「大阪人ってなんにでも面白み求めるってほんとなんだ」
「自分、めっちゃええ腕しとんな。たこ焼きとかお好み焼きはあらへんの?」
「さすがにない。うち喫茶店だから」
「ただいまー。って、やだ。お客さんいたのね。いらっしゃいませ」
買い物から帰ってきたお姉がぺこりと頭を下げる。それを見て、男もきちんと頭を下げ返す。悪い奴ではないのかもしれない。
「…あれが姉ちゃんか」
「うん」
「…でかいな」
「聞こえてるから。セクハラで訴えるよ」
「美衣ってば。お客さんに何言ってるの」
「この人客じゃない」
「あら、そうなの?お知り合い?」
「ああいや、ちゃうちゃう。黒羽にこの店のこと聞いてどんな所やろ思うて」
「え!黒羽さんのお知り合い?!わざわざ来てくれたんですか!ありがとうございます」
姉を見た途端、態度を変えた男。そうなるのも無理はない。姉は儚げで守りたくなる可愛らしい女の子だから。オマケに巨乳。
(もうお姉が誑かしたなんて思ってないだろうし、掘り返すことでもないか)
「ええ店やな。飯は美味いし、店の人はべっぴんさんやし」
「べっぴんさんだなんて…お世辞でも嬉しいです。美衣の料理、とても美味しいでしょ?自慢の妹なんです。私は料理、全然で…任せっきりで情けないんですけど」
「何言ってんのお姉。私にはどんな客にも感じ良く気遣うとか無理だし。情けなくなんかないよ。適材適所じゃん」
それに、お店の経営管理は姉がしてくれてる。私も手伝うと前に言ったけど、仕込みがあるんだからこれぐらいやらせてくれと言われた。
「しっかりしとんな、妹」
「そうなんですよ。しっかり者で可愛くて…昔とかほんとお人形さんみたいで!写真見ます?!」
「ちょ、お姉。やめてやめて。ほら、今のうちにお昼ご飯食べて来て」
「あ、そうね。じゃあ、すみません。ごゆっくり」
「おう。そうさせてもらうわ」
姉の私に対する盲目っぷりは、有難いけどたまに困る。自宅へ降りていく足音を聞きながら小さくため息をこぼした。
西の探偵