20 えんどろーる
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「これやな?キッドに貰ったっちゅう青いバラは」
ジトっとした目でテーブルに飾ってある花瓶を見る平次。コップにお茶を注ぎながら答える。
「うん。綺麗でしょ」
「ほんまキザな奴やで。腹立つわー、人の彼女に。ちゅうか、お前もお前やで。得体の知れん奴からのプレゼント、受け取ったらあかん」
「そりゃ私だって全く知らない人なら受け取らないけど、キッドだったから」
「はぁ?なんじゃそりゃ。まさかあのこそ泥のこと好きなんとちゃうやろなぁ?」
「違うよ。だってキッドは、平次と仲良しなんでしょ?」
「は?」
「あれ?違うの?てっきり仲良しなんだと思ったけど」
コップをひとつ平次に渡して、ソファに座る。リモコンでテレビをつければ、夕方のニュース番組が映る。
「仮に、そうやとして。それとこれとなんの関係があんねん」
「ん?そりゃ、あれだよ。私は平次が好きだから、その平次と仲良しな人なら信頼出来るなって」
「…アホ。本物かも見分けられへんくせに」
「花は危ないものじゃないからいっかなって。それに、メッセージカード黒羽に写真で送ったら本物だって太鼓判貰ったし!」
「なんで黒羽に送んねん。俺に送れや」
「黒羽、キッドのファンだって紗奈が言ってたから」
「気にくわんわー。今度からそうゆうんは全部俺に送れ。ええな?」
「はぁい」
言葉通り、面白くなさそうな顔をして平次が言う。付き合ってから知ったけど、彼は意外とヤキモチ妬きだ。
「平次ってさ、キッドとどうゆう関係?」
「どうゆうって、別にただの探偵と怪盗や」
「えー。私とのデートただの怪盗に負けたの?」
「す、すまんかったて。せやな…確かに、あいつは他のこそ泥とはちゃう。けど、すまん。それ以上は言われへん」
「そっか。じゃあもう聞かない」
「え…ええんか?それで」
「だって言えないんでしょ?」
「そうやけど…」
驚いてるような彼の顔。そのほっぺを人差し指でぷにっと押す。
「言えないことは、言わなくていいよ。その代わり!言えることはちゃんとたくさん言ってよね」
「言えることって?」
「私のどこが好きとか、どこが可愛いとか、今日あったいい事とか、行きたい場所とか!平次のこと好きだから、たくさん知りたいの」
「…そうやって、そのままを受け止めてくれるとこが好きや。アホみたいに広い心が好きや。一緒におると、花畑におるんちゃうかって思える暖かさが好きや」
「わぁ!早速!いやぁ、照れますな」
平次がぎゅっと私の手を握る。その力強さに少し驚きながらも彼の顔を見れば、愛しげな眼差しと目が合う。
「顔も髪も、ネイルも、どんな服でも、何しとっても、全部可愛ええ。誰よりも可愛ええ」
「そ、それは言い過ぎなのでは…」
「けど、ホンマに思うとる。今日あったいい事は、美衣に会えたこと。こうやって一緒に過ごせとること。毎日おおきに」
「こちらこそ、だよ」
「行きたい場所は、特にあらへんけど。美衣となら何処へでも行ったんで。もちろん、地獄でもな」
「…泣かせようとしてる?」
「嬉し泣きなら歓迎やで」
どちらからともなく近づいて、キスをする。今まで気にならなかったことが気になってしまうけど。
(こんなに愛されてるって思えるから、私は大丈夫。だってもう、キッドとの関係とかどうでもよくなっちゃってる)
そんな事よりももっと触れてほしい。もっと近づきたい。そんな思いばかりが胸を締付けるから、そっと首に腕をまわす。
「私も好きだよ。平次」
「どこが?」
「えっとね、顔と、帽子がよく似合うとこと、色黒なとこと、腹筋割れてるとこ!」
「見た目ばっかやないかい」
「ちっちっち。見た目は内面の1番外側ですよ、平次くん。君のかっこよさも優しさも頼もしさも、全部丸見えってことさ」
「そらおおきに。悔しいけどキュンとしたわ」
「え、やった!この前ネットで見た台詞なんだけどね」
「俺のときめき返せや」
抱きしめ合う形のまま、こつんとおでこをぶつけられてくすくすと笑う。彼の前髪がくすぐったい。
「今日ええ事あったか?」
「もちろん!志保のワンピースが超可愛かったし、紗奈が黒羽にバラもらってたのドラマのワンシーンみたいで素敵だったし、平次が私の部屋に来たいって言ってくれたし!あ、あと工藤がなんかよくわからないけど感謝してくれた!」
「いっちゃん大事なとこわかってへんやんけ。らしいけど。ほな、行きたいとこは?」
「いいんだよ、工藤も私も嬉しいなら!行きたいとこはね、いっぱいあるんだ!」
動物園、水族館、ケーキバイキング、映画、身近なものから沖縄や北海道と遠いところまで。指折り数えながら教える。
「めっちゃあるやん」
「そうなんだよねぇ」
「まぁ時間はこれからたっぷりあるんやし、1個ずつ叶えて行こか。とりあえず来週あたり、水族館どや?」
「行く!!」
「おっしゃ。どこにしよか」
「ねぇねぇ、平次」
「ん?」
「デートの計画は後からにして、もっと引っ付きたい」
「…ええな。そうしよ」
唇が重なって、視界が反転する。好きだと伝えたいけど、口は塞がってしまっている。それがどうしようもなく、もどかしかった。