19 ことのは
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「ついに俺とお前だけになっちまったな。あの中でフリーなの」
たこ焼きを食べる私の横で、黒羽がアイスの袋を開けながら言う。視線もそのままに適当に相槌を返した。
「ついでに俺達も付き合っちまうか?なーんて」
「え。黒羽って私の事好きなの?」
「冗談だっての!ったく、わかってたけど本当俺の事意識してねぇのなお前。自信なくすわ」
「それは黒羽じゃん。工藤が言ってた。黒羽は好きな子をいじめるタイプだって」
「はぁ?だったら何だよ」
「私、黒羽が意地悪だと思ったことないし」
「ふーん。じゃあお前は俺の事どう思ってんの」
「ハッピーボーイ」
「バカにしてんのか」
「めっちゃ褒めてるが」
黒羽がいるだけで場が明るくなるし、分け隔てなく誰とでも話せるのは本当にすごいと思う。私にはないものばかり。
「ちゃんと好きな人と付き合った方がいいよ。きっと黒羽は、なんとなくで付き合っちゃっても大事にする人だから」
「…あのよ、俺も誰彼構わずそうゆうこと言うわけじゃねぇからな?」
「え。やっぱり私の事好きなの?」
「まぁそりゃ他の子達よりはな。ずっと一緒にいるわけだし。それに、工藤の言ってた好きな子をいじめるタイプってのは、元カノの話だから今は関係ねぇよ」
「そっか。人は日々変わるもんね」
「おー。そうゆうこと」
最後のたこ焼きを口に放り込む。黒羽の食べてるアイスの甘い香りが鼻をくすぐる。口の中が空っぽになって、声をかける。
「ね、ひと口ちょうだい」
「ん?ああ、いいぜ。ほら」
「ありがと。…美味。やっぱりアイスはバニラに限る」
「関節キスだな」
「中学生か。そんなん今更気にしないよ」
「あ、そ。…堤」
「ん?」
呼ばれて顔を向ければ、ちゅっと軽くキスをされる。アイスを食べてるからか、黒羽の唇は冷たかった。
「…これならどーよ?」
「どうって…キスは駄目でしょ」
「うーわ、反応薄っ」
「こうゆうの他の子にしないようにしなよ」
「するかよ、他の子になんて」
イタズラが不発だった時の子供みたいな顔してアイスを食べる黒羽。何を考えてるのかよくわからない。わかったことなんてないけど。
「なぁ、また行こうぜトロピカルランド。全然一緒にまわれなかったし」
「え。いやいい。もうキッチンカー制覇したし」
「あのなぁ…遊園地は飯食うとこじゃねぇの」
「そもそも黒羽がいなくなったのが悪いと思う」
「そ、それは悪かったって。偽キッドなんて聞いちゃ黙ってらんなかったんだよ」
「ファンなんだもんね」
「まぁな。…なぁ、もしも俺がキッドだって言ったら、どうする?」
「んー、サイン貰うかな」
「は?サイン?」
「うん。有名人だし」
「…はは!サインな!OK、書くよ。いくらでも」
「え?なに?本当にキッドなの?」
「バーロー。な訳ねぇだろ」
じゃあ何故そんな事を言ったのか。理解できなかったけどその理由も特に気にならなかったから、聞かなかった。
「ねぇ聞いて!!昨日キッドからプレゼントきたの!」
「え。あの偽物?」
「違う!本物!のはず!花束くれた!」
「花束?なんで」
「なんかね!私の偽物に攫われたと聞いてお詫びに伺いました。この花のように美しい女性に嫌われるのは心苦しいので。だって!ほら!メッセージカード!」
「へぇ。なんていうか、律儀だね。怪盗なのに」
「確かに!!偽物がやった事で嫌うなんてないのにね。サインもらいたかったな〜」
まるでアイドルに遭遇したかのようなテンションの美衣。工藤と服部と宮野は何故か黒羽をジトっとした目で見ている。
「よっぽど偽物が許せなかったのね」
「だからってなぁ?」
「やっぱ警察に突き出したろか」
「か、顔が怖ぇって服部」
「どんな花束だったの?」
「それがすごいの!青いバラでね!」
「バラやてぇ?」
「青のな!青の!確か花言葉は夢が叶うとか奇跡とか祝福って意味で、キッドはきっとお前のこれからの明るい未来を願ってそれにしたんだろうな!な?!工藤もそう思うだろ?!」
「ま、そうなんじゃねぇの。キザなアイツがやりそうな事だな」
何やら焦ってキッドのフォローをしてる黒羽。かなりコアなファンって感じだ。なんて思ってると目が合う。
「どうした?紗奈」
「バラって食べれるのあるよね。美味しいのかな」
「いや知らねぇよ!ほんとお前は花より団子だな」
「そんな事ない。私も花束もらってみたい」
「え?マジで?」
「うん。マジで」
「あら。紗奈もやっぱり女の子ね。花束に憧れてるなんて」
「紗奈、割とロマンチックだもんね」
ただ貰った花の花びらをお風呂に浮かべてバラ風呂的なのをやってセレブ気分を味わってみたいだけなのだけど。説明するのも面倒で頷く。
「ふーん…。花束じゃねぇけど、ほい」
「え、すご。バラ出てきた」
「やるよ。トロピカルランドで放ったらかしたお詫びに」
「あら。たかがバラ1本でお詫びになると思ってるのかしら。笑えるわね」
「工藤!お前の彼女怖ぇんだけど!」
「悪い黒羽。俺にはどうも出来ねぇ」
「堤、赤いバラの花言葉は愛情やで」
元々くれる予定のなかったものだろうし、服部の言葉に舞い上がったりはしないけど。素直に嬉しかった。
ことのは