18 やくそく
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(ここ…どこ…?)
ぼんやりとした視界が段々とクリアになる。見覚えのない病院のような白い天井。頭がぼーっとする。
「…美衣!目覚めたか!」
「…平次?」
「具合どや?痛いとことか、変な感じするとこないか?」
「え?うん、平気。ここ何処?」
「トロピカルランド内にある医務室や。お前、攫われて睡眠薬で眠らされとってん」
「さ、攫われたの?!私が?!」
「覚えとらんか?キッドの格好した奴や」
「…あ!!ショーのスタッフの人!そっか、見覚えあると思ったらあれキッドの衣装だ!」
とゆうことは、あの人は本当はショーのスタッフなんかではなくて、悪い人だったのか。
「犯人はもう捕まえてんけど、落ち着いたら警察が事情聴取させてくれ言うてたから、呼んできてもええか?」
「あ、うん。もちろん」
「ほな、呼んでくるわ」
平次が部屋を出て行くと、すぐに黒羽と紗奈が入ってきた。
「野々村!大丈夫か?」
「うん。ごめんね、心配かけて。紗奈も、ごめんね」
「…なんで、美衣が謝るの」
「え?」
「私が…ポップコーンなんか買いに行かなきゃ…1人にしなきゃ…こんな事に、ならなかったのに…!ごめん。ごめんなさい、美衣」
「紗奈…!やだ、泣かないで!私ほら!元気だし!紗奈のせいなんかじゃないよ!絶対!」
「俺も、ごめん。ちゃんと傍にいれば攫わせやしなかったのに」
「黒馬までやめてよ〜。誰かのせいなんて思ってないってば」
私がノコノコついて行かなければ良かっただけの話。よく考えれば、怪しいってわかりそうなものなのに。
「失礼します。って…だ、大丈夫ですか皆さん。なんなら、事情聴取は後日でも構いませんが」
「あ、いえ!大丈夫です!出来ます!」
「そうですか?では、お話伺わせてもらいますね」
刑事さんが部屋に入ってきて、事情聴取が始まる。紗奈は泣き止んだものの、明らかに元気がなさそうだった。
「ありがとうございました。以上で終わります」
「はい。お疲れ様でした」
「では、失礼します」
「…えへへ。事情聴取なんて初めてうけちゃった。貴重な体験したな」
「私もうけた。自伝にかけるね」
「いや書けねぇだろ。犯人捕まえた訳じゃあるまいし」
「犯人って平次が捕まえたの?」
「うん。凄かった。私が連絡したらすぐ走り出して、あっという間に捕まえて美衣見つけて」
「元々、犯人の目星はついてて現行犯逮捕しようと予告時間まで待ってた状態だったんだ。けど…そのせいで野々村を巻き込んじまって、あいつ、すげぇ自分を責めてると思う」
眉毛を歪ませて黒羽が言う。ギュッとシーツを握ると、ドアが開いて平次が部屋に入ってくる。
「事情聴取終わったか?」
「平次!うん、終わったよ」
「ほな、帰ろか。医者にも起きたら帰ってええ言われたし」
「あ、ねぇ、平次。最後に観覧車だけ乗らない?」
「観覧車?ええけど、大丈夫か?」
「うん!めっちゃ元気!黒羽達も行こうよ」
「あ、いや。俺達は飯食いに行くわ。な?堤」
「うん。安心したらお腹減った」
「そっか。じゃあまた学校でね」
医務室を出て黒羽達と別れる。空はもう暗いけど、パーク内はまだ賑やかで光に溢れていた。
「わぁー!夜のトロピカルランド綺麗だね!」
「せやな。美衣、手繋いでええか?」
「え?うん。もちろん」
「今日、ホンマにごめんな。せっかくのデートやったのに」
「まだ終わってないじゃん。終わり良ければ全て良しって言うでしょ」
「おおきに。腹減ってへん?なんか買うて乗るか?」
「あ、じゃあ飲み物だけ買お。ちょうどパレード中だからどこも空いてるね」
しっかりと私の手を握ってる離さない平次。いつもより元気もないように見える。黒羽の言葉が頭をよぎる。
「観覧車とか久しぶりに乗ったわ。高いとこ平気なん?」
「あんま得意じゃないけど、下見なかったら大丈夫」
「得意じゃないならなんで乗ろ言うたねん。他のやつでもよかったやん」
「観覧車が1番、ゆっくり話せると思って」
「…そうやな。お説教ならいくらでも聞くわ。好きなだけ罵ってくれ。なんなら殴ってもええで」
そう言って苦笑いする平次の頬を、手を伸ばしペちっと指先で叩く。蚊だって殺せないくらいの威力に不思議そうな顔をする彼。
「今日のデート!楽しみにしてたのにずっと放っとかれてムカついた!」
「あ、ああ。すまん」
「埋め合わせしてよ。また連れて来て」
「もちろんや。いつでも連れてきたる」
「やった!じゃあ許す!」
「…それだけか?もっと他に、言うことないん?」
「え?ないよ。紗奈いたから楽しかったし。だからこの話は終わり。次は私が謝る番」
「は?なんで美衣が謝んねん」
平次の傷ついた手にそっと触れる。手の甲についた傷は何かを殴ったのか。手のひらについた傷は、爪がくい込んだように見える。泣きたくなるのを堪えて、彼の手を自分の手で包み込む。
「心配かけてごめんなさい。助けてくれて、ありがとう」
「…何、言うて……俺がっ…!俺がお前を1人にせんかったらそもそも巻き込まれたりせぇへんかったんや!俺がお前を放ったらかして偽キッドを泳がせたりしたからっ!せやからっ…お前は…!」
「私が無事でここにいるのは、平次のおかげだよ。悪いのは犯人じゃん」
「なんで…責めへんのや…お前のせいやって…」
「もう充分、平次が自分で責めてるもん。それに、私は平次のことが好きだから。そんな事より早く抱きしめてくれないかなって思っちゃう」
揺れる彼の瞳が、潤んだような気がした。苦しいくらいに抱きしめられて、泣いてるのかはわからないけど。
「めっちゃゴンドラ揺れたね」
「怖ない?」
「うん、大丈夫。平次と一緒だから」
「…アホ。もう絶対、1人になんかさせへんから」
「うん。ずっと一緒にいよう」
負けないよう精一杯腕をまわして抱きしめ返す。パレードのフィナーレなのか、空に大きな華が輝いていた。
やくそく