17 かれしはたんてい
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「美衣、帰んで」
「が、がってんだ」
探偵って順応性高いんだろうか。さっきの今でもうさもずっと名前で読んでますみたいな顔してた。
「名前効果ってすごいね。やっぱり付き合ってるのかってめっちゃ聞かれた」
「よかったやん。自慢したかったんやろ?」
「うん。めっちゃ自慢した!でもなんか、みんな今更?みたいな反応だった」
「お前の自慢の仕方が下手やったんとちゃう?」
「そんなはずは…ちゃんとかっこ良くて頭良くて剣道強くてちょっと口は悪いけど優しくて頼もしい彼氏だって自慢したのに」
「おまっ…それ彼氏出来た自慢っちゅうか…俺の自慢やんけ…」
「うん?同じじゃない?」
首を傾げる私に全然ちゃうわ、と何やら照れくさそうな彼。嫌がってる訳じゃないみたいだからいいか。
「ん。ヘルメット」
「ん?どっか寄るの?」
「俺ん家行こ」
「え!服部の家?!わーい!初めてだ!」
「平次やろ?」
「へ…Hey、爺」
「Hey Siriみたいに言うなや。誰が爺や」
「ごめん。まだ慣れなくて」
「ま、ゆっくりでええわ」
ぽんと私の頭を優しく叩いてバイクに跨る彼。いつもより少しだけ強めに、その背中にしがみついた。
「おー!ここが服部の家かぁ!うん!普通!」
「当たり前やろ。ただの大学生の一人暮らしやねんから」
「いやぁ、実家見た後だから変に期待しちゃって。お邪魔しまーす」
「カフェラテでええか?アイスとホットどっちがええ?」
「ホット!」
「ほないれてくる。適当に座っとき」
初めて足を踏み入れた服部の部屋。部屋で1番存在感のあるローソファに座り辺りを見渡す。本棚、ベット、テレビ、クローゼット。
(テーブルには新聞とバイク雑誌…服部って感じだな)
「ほれ。インスタントやけど」
「ありがと。にしても服部、家ではカフェラテとか飲むんだね。外じゃいつもブラックコーヒーなのに」
「飲まへんで」
「え?じゃあなんでカフェラテのインスタントなんてあるの?」
「カフェラテは美衣が好きやから、わざわざ買うてん」
「…私の事大好きかよ」
「せやで。悪いか」
「悪くない。すごく嬉しい!ありがとう!…へ、平次」
愛しげにこちらを見る彼と視線が絡み合う。距離が近づいて、キスされるんだと思い目を閉じる。
思った通り唇が触れて、離れていく。そうっと目を開ければ熱を持った彼の視線にドキッとした。
「ど、どうしましたか」
「…言わせんなボケ。煽っとんか?」
「え?いや、煽ってないです」
「あー、その顔ホンマにわかってないな。そうやったアホやった」
「今のアホはバカにしただろ」
「にっぶい美衣にもわかり易う教えたるわ」
「え?!ちょっ…」
ぐいっと腕を引かれて抱きしめられる。すっぽりと彼の腕の中に収まって、心臓の音が聞こえそう。
「顔上げ」
「う、ん〜…顔近いな?」
「近づけとるからな」
言われた通り顔を上げれば、すぐそこに彼の顔があって。ちゅっとおでこに軽いキスをされる。目が合って、今度は唇に。
(さっきより体が密着してて、なんか、緊張…って…ふ、太ももに…なんか、かたいのが…)
「…どや?わかったか?」
「え…あ、こ…興奮してらっしゃる…?」
「せや。ずっと好きやった女と自分家でキスしとんやから、当然やろ」
「えっと…する?」
「ええんか?止まれへんぞ」
「うん。だいじょ…ばない!!駄目だ!やっぱ駄目!」
「ぐふっ!」
「ご、ごめん!!でも今日は駄目!」
思い切り服部を突き飛ばしてしまった。申し訳ないけど、このまま流されるわけにはいかない。
「…今日じゃなかったらええん?」
「えっ…と…ら、来月!来月まで待って!」
「来月?なんでやねん」
「だって今金欠なんだもん!」
「はぁ?それの何があかんねん。ゴムならちゃんと…」
「可愛い下着買うお金がないの!使い古したやつばっかで、次のバイト代で一新しようと思ってて!」
「…下着やと?」
「そう!今日とか上下バラバラでっ…い、いつもは違うんだよ?!古くなったやつ捨てちゃったからっ…!」
なんて情けない。日頃からちゃんとしてればこんな事にはならなかったのに。恥ずかしくて泣けてくる。
「アホやなぁ。どんな下着でもかまへんのに」
「う、嘘だぁ!あとあと黒羽とあいつ上下バラバラだったんだぜとかって笑い者にするでしょ!」
「するかボケ。なんで他の男にわざわざお前の下着の話せなあかんねん。見んのも知っとんのも、俺だけでええわ」
「…きゅ、キュンときた」
「なぁ、俺は気にせんで。上下バラバラでも使い古したんでも、変な柄でも。それでも、あかん?」
「うっ…ご、ごめん。やっぱり綺麗で可愛いやつを見せたい…ちょっとでも、良く見られたいし…」
「わかった。ほな、待つわ。来月まで」
優しく私の頭を撫でながらそう言う彼の手はとても暖かくて大きくて。すごく安心する。
「ありがとう、は…じゃなくて、平次」
「その頃までに、名前呼びも慣れときや」
「1ヶ月あればいける!はず!」
「そこは言い切らんかい」
ふっと笑った彼の顔が優しくて、胸がキュンとする。バイト代が入ったら、とびきり可愛い下着を買おう。そう決めて、彼の胸に顔を埋めた。