16 かたちあるもの
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「堤は、キッドが犯人だって思うか?」
事件の跡地を前にして、珍しく真剣な顔でそんなことを聞いてくるなんて。
「黒羽ってキッドの事大好きなんだね」
「は?いや、まぁ…そりゃあな。月下の魔術師だし?」
「親近感ってこと?」
「そんなとこ。つーか、質問に答えろよ」
「思わない。とゆうか、犯人が誰かなんてどうでもいい」
「あのな…お前この事件の犯人の心理をレポートにして提出すんだろ?犯人が誰かわからねぇと始まらねぇじゃねぇか」
「そんな事ない。私が知りたいのは真実じゃないから。私なら、どんな時にここにあった形あるものを壊したいと思うか、それでいいと思ってる。その人の本当の気持ちなんてその人にしかわからないし」
言いながら、近くの縁石に腰を下ろしてノートパソコンを開きかつてここにあった建物の写真を画面に映し出す。
「本当の気持ちはその人にしかわからない、か。その通りだな」
「でしょ。だから、伝えたいことはちゃんと伝えるんだよ黒羽。わかりきってることでも、ちゃんと言葉にして伝えないと」
「堤…そうだな。じゃあ言うけど、さっきから腹の音やばくね?」
「お腹が空いている。京都来てまでレポートするとかどうかと思う」
「おまえが言い出したんだろ!ったく、しゃあねぇな。帰りの新幹線でちゃんとやれよ!」
「もちのろん!行こう黒羽!京都が私を呼んでいる!」
ノートパソコンを素早く鞄に片付けて立ち上がる。そうして帰りの新幹線の時間まで目一杯、京都を満喫したのだった。
「てな感じで!楽しかったよー!旅行!」
「服部と野々村もやっとくっついたし、行ってよかったよな」
「やっぱええよな、大阪は」
「思い出したらお腹すいてきた…」
「相変わらずだな、おめーら」
「お土産ありがとう。素敵なスカーフ。買ったばかりの鞄につけるわ」
「あ!本当だ!志保の鞄新しい!」
「しかもフサエブランドじゃん。いいな」
「ちょっと臨時収入が入ってね」
旅行は楽しかったけど、やっぱりいつも通りが1番落ち着く。大学で工藤と志保の顔を見ながらそう思う。
「にしても、付き合ったって言っても前とあんま変わんねぇよな。服部と野々村」
「何言ってんの工藤!天と地ほど違うが?!」
「え。何が変わったの」
「紗奈まで!いつも一緒にいるじゃん!連絡だってよくとるし!」
「いや、それ前からだろ」
「た、確かに!いやでも!ほら!2人きりの時間増えたし!」
「それも少し前からよくある事だったわね」
「本当だな?!え?!私達もしかして変わってない?!」
そう言いながら服部の方を見ると、頬杖をつきながら呆れたようにため息をこぼす。
「そらみんなの前では変わらんやろ。今までも仲は良かったんやし」
「あ、そっか!2人の時はそりゃあもうラブラブだもんね!」
「お、それ詳しく」
「聞きたい聞きたい」
「やかましわ!誰が聞かせるか!野々村も余計なこと言わんとき!」
「でも服部!やっぱり誰が見ても付き合ったってわかった方が良いのでは!」
「なんでやねん」
「単純に彼氏出来たの自慢したい!!」
「清々しい程の真顔やな。そうは言うても、そんな都合ええ方法あるわけ」
「あるわよ」
服部の言葉を遮るように志保が言う。さすが工藤とゆう恋人を持つ女。彼女に体ごと向き合う。
「志保様!それはどのような方法で?!」
「名前で呼ぶのよ。お互いに」
「なっ…名前…!」
「確かにそれなら誰が見ても前より距離が近づいたってわかるな」
「元々付き合ってる疑惑のある服部達なら、尚更だろうし」
「ナイスアイデア。さすが志保」
「そうゆう志保は未だに俺の事工藤くん呼びだけどな」
「う、うるさいわね。悪い?」
「別に?いずれお前も工藤になるんだし、それまで好きなだけ呼んでればいいさ」
「ばっ…バカじゃないの」
「うへ〜。よくあんな恥ずかしい台詞言えるよな、工藤のやつ」
「よう言うわ。アイス野郎が」
盲点だった。確かに名前で呼べば付き合ってる感満載だ。この中でも異性を名前で呼んでるのは工藤が志保に対してだけだし。
「よし服部!やろう!」
「腕相撲をか?」
「違う!名前呼びをだよ!これは握手の手!」
「握手をファイティングポーズで求めるやついねぇだろ」
「あのな、名前呼びなんてやろう言うてやるもんとちゃうやろ」
「ま、まさか服部…私の名前知らない…?!」
「どアホ!なわけあるかいな!」
「じゃあ呼んで!さぁ!カモン!」
「…美衣」
「照れてる」
「照れてるな」
「照れてるわね」
「じゃあかぁしいぞ!外野!」
少し視線を逸らして頬を赤らめながら呟かれた名前。それは私の中に甘く優しく響いて溶けていった。
「そ…想像以上に恥ずかしいかも」
「せやから言うたやんけ。やろう言うてやるもんちゃうて。ほれ、さっさとお前も呼ばんかい」
「えっ?!そ、そうだよね。そうなるよね…」
「…まさかお前、俺の名前知らんのとちゃうやろな」
「有り得るな」
「野々村だからな」
「否定出来ないわね」
「ちょっ、失礼な!ちゃんと知ってるし!へっ…へい…へい…じ…くん…」
「…なんでくん付けやねん」
「な、なんとなく…」
「青春だな」
「見てるこっちが照れてくるぜ」
「ちゃんと恋人同士に見えるわ」
名前を呼ぶだけなのに、なんでこんなに恥ずかしいのか。だけど嬉しそうな服部の顔。その顔が見れるなら頑張って慣れよう。そう思いながら、火照った頬を両手で抑えた。
かたちあるもの