16 かたちあるもの
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「オカンにバレててん」
「え?なにが?」
服部家を出た私達は、京都へと来た。黒羽と紗奈とは別行動で朝から贅沢に喫茶店でモーニングを食べている。
「野々村が彼女やって」
「え!そうなの?!数分しか会ってないのに、母親ってすごいね」
「おー、ビビったわ」
「…お母さん、なんか言ってた?」
「ん?なんや、気になるんか?」
「そりゃまぁ、反対されたら嫌だし…」
「心配せんでも反対なんかされてへん。手に入れたからってあぐらかいたらアカンでって釘刺されたわ」
「わー。お母様かっこいい」
彼氏のお母さんと会ったって事になるんだと今気付いて、粗相がなかったかと昨日を振り返る。
「大丈夫やで。オカン、誰に対しても嫌なことは嫌って言うタイプやし」
「心読むのやめてもらっていいですか」
「読んでへん。顔に書いてあんねん」
「大丈夫ならよかった!心置きなく京都を楽しめる!」
「行きたいとこ決まったか?帰りの新幹線もあるし、そんな沢山は行かれへんけど」
「あ、うん。色々調べたけど絞りきれなくてね。だから、散歩しない?」
「そんなんでええんか?」
「うん。京都って街並み綺麗だし、食べ歩き出来そうだし、それに、それなら私だけじゃなくて服部の行きたいとことか好きなものとか知れるかなって」
食後のコーヒーを冷ましながらそう言うと、なにやら嬉しそうに微笑んでる服部。朝日に照らされて綺麗だ。
「嬉しそうだね?」
「嬉しいからな。俺に興味持ってくれて」
「えー?私が今まで興味なかったみたいじゃん」
「なかったやろ。お前は良くも悪くも、他人に興味持ってへん。自分はフルオープンのくせに。受け入れるけど、自ら踏み込もうとはせん」
「…言われてみれば、そうかも」
「せやから、お前が俺のこと知ろうとしてくれて、めっちゃ嬉しいで」
その気持ちは、わかる。私も服部が私の事よく知ってくれてて、嬉しいから。なんていうか、安心する。
「ね、服部っていつから私の事好きなの?」
「あー…いつやろな。覚えてへんけど、結構前からや」
「覚えてないの?!」
「ああ。気付いたら、好きやった」
「ええ…そうなの」
「ほな逆に聞くけど、いつ俺のこと好きになってん」
「え?!た、確かにわからない…!気付いたらだ!」
「せやから言うたやろ。恋に落ちる音なんかないって」
そういえば、あの時も服部はそう言ってた。気付いたら好きになってるんだって。じゃああの時も、私のことを好きだったのか。
(胸がきゅうってする…こうゆうのを、愛しいって言うのかな)
知れば知るほど、服部を好きな気持ちが膨らんでいく。その度に、幸せな気持ちになる。
「お、これええやん。工藤に土産で買って帰ろか」
「和柄の蝶ネクタイ?イメージないけど確かに似合いそう」
「せやろ。あいつこうゆう堅苦しいん似合うかな」
「あ、ねぇねぇ!じゃあさ!この同じ柄のスカーフ、志保にどうかな?」
「お、ええな。それなら宮野でもつけてくれそうやし」
気になったお店に立ち寄り、時には買い物をしながら私たちは京都の街を歩く。見るもの全てが新鮮でちょくちょく足を止める私に服部は当然のように隣に並んで立ち止まってくれる。
(言われてみれば、服部が志保や紗奈に髪型とかの変化を言うのって聞いた事ないや。本当に、ずっと好きでいてくれてんだなぁ…)
私が優しさだと思っていたものは、服部からの好意だったのだ。じんわりと胸が暖かくなる。
「ね、服部。手繋いでもいい?」
「ええけど…どないしてん」
「服部のこと、好きだなって思ったら触りたくなったの」
「なっ…なんちゅう可愛ええこというんじゃボケ!真っ昼間やぞ!」
「ご、ごめん?!」
「ほんま人たらしっちゅうか、なんちゅうか…俺以外に言うなや。そうゆうこと」
「言わないよ。触りたいなんて思ったの、服部が初めてだもん」
ぎゅっと彼の大きな手を握る。赤くなった頬が可愛くて口元が緩む。
「アホ。帰ったら覚えとけよ」
「ん?うん、わかった」
「絶対わかってへんやんけ」
「あはは。バレた」
手を繋いで歩く京都の街。すれ違った舞子さんの持っていたポーチについてた鈴がチリンと鳴る。耳を済ませてなければ聞こえないくらいのそれに、恋に落ちる音って、きっとあんな感じなんじゃないかと思った。