12 おまつり
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「あれ。野々村。1人か?」
「服部はどこ行ったのよ」
射的の屋台でまたも惨敗し、頭を抱えていると後ろから声がした。振り返ればそこには工藤と志保がいた。
「志保!工藤!服部はチュロス買いに行った!今ちょっとリベンジマッチに燃えてて」
「そんなに欲しいもんあんのか?」
「うん。当たってもなかなか落ちなくて」
「工藤くん、やってあげたら?あなた得意じゃない」
「え!そうなの?!あ、でも自分で取りたいからコツ教えて!」
「おう。んじゃ、まずはターゲットの重心がどこかを見定める」
「おじさん、もう1回ね!重心…」
3度目の正直。お金を払って銃を構える。工藤のアドバイス通りにターゲットと目線を合わせ、重心を見定め、思い切り引き金を引く。
「わー!!やった!!倒れた!!」
「やるじゃねぇか」
「よかったわね」
「おめでとう姉ちゃん!持って行きな!」
「ありがとうございます!!工藤も志保もありがとう!」
「どういたしまして。にしても、それがそんなに欲しかったのか?」
「うん!」
「まさか何か事件に巻き込まれてるんじゃないでしょうね」
「違う違う!デートの邪魔してごめんね。それじゃまた!」
取れた喜びで服部に言われた事もすっかり忘れチュロスの屋台へと駆け出す。けれどそこにもう2人の姿はなくて。
(あ…しまった。射的の屋台で待ってるよう言われてたんだ!)
「あ、美衣。迷子?」
「紗奈!って、すごい量だね?!両手に食べ物持って」
「これぞ至福」
「それはなにより。1人なの?」
「うん。今から美味しかった焼きそば屋さんにもっかい行く」
「まだ食べるんかい!あ、私戻らないと!じゃあまたね!」
「はーい」
紗奈に手を振って射的の屋台へ戻ろうとしたけど、何やら人を探してるっぽい浴衣の子を見つける。
(もしかして、あの子の友達かな?)
声をかけたいけど、急に知らない人に声をかけられたら驚くだろうし。見失わないように後をついていきながら、スマホを取り出す。
(服部に電話…あ!ちょうどかかってきた!)
「このボケ!!どこ行ったんや!」
「はい!すみません!あの、友達かもしれない子見つけて、でも知らない人に急に声かけられたら怖いかと思って後追いかけてて!」
「ほんで、今どこやねん」
「えっと…イカ焼きの屋台のとこ!」
「同じ屋台がないと思うとんのか!屋台以外の目印言わんかい!」
「あ、そっか!え〜…花みたいな提灯がっ…!」
不意に背後から人にぶつかられ、よろける。その拍子にスマホを落としてしまい、人混みの中、誰かも分からない足に蹴られスマホが遠ざかる。
人混みをかきわけてなんとかスマホを救出したものの、画面は割れてうんともすんとも言わない。
(こ、壊れちゃった…?嘘でしょ〜!)
ハッと我に返り辺りを見渡すけど、追いかけてた女の子の姿はない。自分の駄目さに肩を落とす。
(私ってなんでこうバカなんだろ…これからどうしよ…)
ひとまず、人混みを避けるように屋台のない暗がりの石段に座る。連絡がとれないのでは合流するのは無理かもしれない。大きなため息をこぼし、膝を抱えた数分後。
「野々村!」
「え…は、服部…!なんで、わかったの?この辺に居るって」
「イカ焼きの屋台はいくつかあるけど、射的の屋台からいっちゃん近いイカ焼きはそこの角やし、あそこのおっちゃん呼び込みの声でかいしな。目印言われてとっさに思いつきやすい。ほんで、花の提灯。あれやろ?家紋入りのでっかいやつ。あれが飾ってあんのは、そこだけやからな」
「さ、さすが名探偵ー!!見つけてくれてありがとう!もう一生迷子かと思ったよー!」
「ったく、待っとけ言うたやろ。どうせ景品取れた喜びですっぽ抜けたんやろうけど」
「すみませんでした」
図星すぎて何も言い返せない。しょんぼりしてる私に服部は小さくため息をこぼす。そして私の手にあるスマホを見て驚く。
「お前それ…壊れたんか?!どうせまた充電切れやと思うたわ」
「あ、うん。そうみたい。それより、ごめんね。せっかく友達かもしれなかったのに、結局見失っちゃって」
「え?あ、いえ、そんな…」
「あと、これ。散々迷惑かけた後で申し訳ないんだけど。あげる」
「え…これ、さっき野々村先輩が射的で欲しがってたやつですよね?」
「うん。それね、実は防犯ブザーなんだ。前にテレビでそれっぽくなくて鞄につけやすいって見たの!ストーカー怖いだろうし、気休めにしかならないかもだけど、ないよりはお祭り楽しめるかなって思って」
「……私の、為に?どうして…話したのだって、今日が初めてなのに…」
やっぱりありがた迷惑だっただろうか。本当は偶然取れたのを装ってさり気なく渡せればと思ったのに、うまくいかない。
「せっかくのお祭り、楽しめないのもったいないじゃん」
「…それだけの、理由で?」
「お前、これにいくら使うた?」
「服部くん!野暮なことは聞かないの!取れたから実質0円だよ!」
「な訳あるかアホ」
「……野々村先輩、ありがとうございます。それから、すみませんでした」
「え?!な、なに?!なんで謝るの?!頭上げて!」
「これ、嬉しいです。大切に使いますね」
「使って使って!あ、普通にでいいからね!」
受け取ってくれて良かった。あとは友達が見つかれば完璧なのだけど。見失った自分が悔やまれる。
「私、もう帰ります。今日は本当にありがとうございました」
「え?!帰っちゃうの?!」
「はい。とても私には勝ち目がなさそうなので」
「勝ち目?え?なんの事?服部、わかる?」
「帰り道気、気つけや」
「大丈夫です。幼馴染が迎えに来てくれるので」
「幼馴染おるん?大切にしたりや」
「…はい。そうします。お世話になりました」
「え?え、え?本当に帰っちゃうの?」
「お祭り、野々村先輩のおかげで楽しかったです!」
「あ、ほ、ほんと?ならよかったけど…」
「では、失礼します!」
ぺこっと頭を下げて走り去って行く女の子。何が何だかわからないけど、楽しかったのなら良しとしよう。
そう思った私の背後で、夜空に大きな花が咲いた。
おまつり