8 よりどころ
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中のカプセルに入ってたのは、緑色の宝石みたいな丸い石がついた金色のピンキーリング。早速小指にはめる。
「見てほら!超可愛い!」
「ああ。可愛ええな」
「だ、だよね!ほんとありがとね、服部」
真っ直ぐ目を見て言われて、一瞬ドキッとした。指輪のことだとわかっているのに。自分に向けて言われてるようで。
「そうゆうリアクションでかいのとか、感情全部顔に出るとことか、1人で飯食うの嫌いなとことか、絶対デザート食うとことか、話があっちこっちいくのとか、忘れっぽいとことか、目に付いた気になったもんにすぐ飛びつくとことか、全体的にアホやな、子どもっぽいなって思うとる」
「あ…う、うん。だよね。いつもごめ、」
「けど、それを嫌やと思うたことはあらへん。謝ることなんかなんもない」
「…で、でも、服部もよく言うじゃん!脳内お花畑だって!」
「幸せそうでええなって意味や。嫌ならもう二度と言わん」
「あ、いや、嫌とかじゃないけど…」
服部は真面目な顔して私を見てる。きっと気付いてるんだ。気分が落ち込んだ原因がそれだと。
「…昔、付き合ってたらしい人に言われたの。バカで幼稚で疲れるからすぐ別れたって。私は付き合ってたつもりもないんだけど、なんかある日突然彼女にされてて」
「はぁ?!なんやその訳分からん男は!」
「うーん。私もなんでそうなったのか未だによくわからなくて。でも高校の時の話だし、ほんと3日くらいだったからもういいんだけど」
「よくないわ!何がどうなってそうなんねん!腹立つわー!」
「め、めちゃくちゃ怒るじゃん」
「そら怒るやろ!ええか?!お前の能天気さも楽観さもアホさも、俺にはもれなく纏めて長所なんじゃ!そんな訳分からん男の言葉に落ち込んでんとちゃうぞ!」
自分でもわかるほどのバカさも幼稚さも、服部にとってはもれなく纏めて長所。なんて暖かくてありがたい言葉なんだろう。
「…実は、それ聞いて服部やみんなも実は疲れてたりしてないかなってちょっと思っちゃって」
「はぁ?!な訳あるかいな!そうやったらとっくに離れとるわ!そら友達かて嫌なとこの一つや二つあってもおかしゅうないで。けどな!それを超える好きがあるから、一緒におんねや!わかるか?みんなお前が好きやねん!」
「うん…うん!私もみんなが好き!」
「おん。ついでにもう1個覚えとき。俺の言うアホには愛がこもっとんねん」
「愛が…」
「せや。わかったらもう二度と、しょうもない事で落ち込むんちゃうぞ」
「…うん。わかった」
少し照れくさそうに言う服部に顔がほころぶ。なんだか心の裏側をくすぐられてるような不思議な気持ち。
「話終わった?」
「紗奈!うん、ごめんね。長居しちゃって」
「大丈夫。元気になってよかった」
「うん。ありがとう」
「ではもう開店時間になるのでお引き取り下さい」
「急にドライ!」
「はは。堤って感じやな。ほな行こか。邪魔したな」
「うん。お邪魔しました。叔父さんにもよろしくね」
「伝えとく。またね、2人とも」
手を振る紗奈に見送られながら、バーを後にする。うっすらと暗くなった空。風が少し冷たい。
「割と冷えんな。寒ない?」
「大丈夫。服部こそ、平気?病み上がりなのに」
「そんなヤワじゃないつもりやけど、まぁもしまた熱出たら野々村のせいやな」
「お、おっしゃる通りで…ごめんなさい」
「そん時は、また話し相手になってくれたら許したるわ」
「もちろん!いつでもウェルカム!」
「黒羽に聞いたで。俺からのメッセージ待ってずっとスマホ気にしてたて」
「うん。普段服部から頼られことなんてないから嬉しくて。私は助けられっぱなしなのに」
ふと、服部が足を止める。珍しいと思いながら私も歩くのを辞めて彼を見る。彼の瞳が、揺れる。
「アホやな。俺がどんだけ助けられとるか、なーんも知らへんのやから」
「…私、助けてる?服部のこと」
「ああ。底が見えへん暗闇に落ちそうやと思っとったのに、野々村が持ってきた明かりのおかげで、一面花畑なんやって気付けたくらいにな」
「いや例えが難しい!!」
「とにかく、壮大に助けられたっちゅうこっちゃ。たぶん、工藤も黒羽もな」
「工藤と黒羽も?」
「せや。俺ほどやないかもしれんけどな。だから、そのまんまでええんや。野々村の能天気さも楽観さも、俺らにはちょうどええ」
心が震えた。この感情をどう言葉にしたらいいか、わからない。服部の優しい笑顔が嬉しくて、泣きそうだ。
「えへへ。私って実はすごい奴?」
「おお。今更知ったんか。なんせ脳内お花畑やからな」
「…今のはちょっとバカにしてない?」
「バレたか」
「もー!服部だって色黒のくせに!」
「色黒関係あらへんやろ!!」
そんな風に言ってくれる人がいるなら、私はもう充分すぎるくらいに幸せだ。誰かの1番になれなくても、私は私を愛しぬける。
「ありがとう、服部。これからもよろしくね」
「なんや急に。心配せんでもこれからも面倒見たるわ」
「ふふん。私は今生まれ変わったのです。最強に。だから安心したまえ」
「どっから来るんやその自信」
「それはもちろん…ああ!!」
「うお?!なんやねん、でかい声出して!」
「…叔父さんのバーにスマホ忘れて来ちゃった」
「…はぁ。誰が最強やって?」
「ごめんなさいー!修行の身からやり直しますー!」
「ほんま、アホやなぁ」
そう言って笑いながら、当たり前のように一緒にバーへと戻ってくれる服部。その横顔はなんだかいつもより、かっこよく見えた。
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