8 よりどころ
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メンタルが落ち込んだ時、いつも思う。この世界に私を必要としてる人はいないんじゃないかって。仲良しな人達はいるけど、その人達の1番は私ではなくて。
もし世界中の人が自分の大切な人1人だけを選べって言われたら、誰からも選ばれないんじゃないかって。
「でもだからこそ、私は私を精一杯愛してあげたいと思うんです」
「そっか。いやぁ、いい子だね。野々村さんは」
「えへへ。ありがとうございます。開店前にすみません。紗奈が今日バイトだって言ってたから」
「いいんだよ。いつでもおいで。紗奈は今買い出しに行ってもらっててね」
「そうなんですね。誰かに話聞いてもらいたい気分だっただけなので、これ飲んだら帰ります」
叔父さんが出してくれたお茶を飲む。よく冷えたそれが体の中に落ちていく。自分の言葉も一緒に染み込ませる。
「でもね、野々村さん。人は1人じゃ生きれない。誰しもが誰かの為に生きているんだ。それはたった一瞬かもしれないし、一生かもしれない。いつどこで誰の為になってるかなんて、分からない事の方が多い。そして案外、自分では思いもよらないことが誰かの為になってたりするもんだ」
「…自分では、思いもよらないことが」
「そうさ。それに、このおじさんの目にはいるように見えたけどなぁ。君を1番だと思ってるる人が」
「え?それってどうゆう…」
「ただいま、叔父さん。って、美衣じゃん」
「あ、おかえり。紗奈」
お店のドアが空いて買い物袋を持った紗奈が入ってきて、叔父さんとの会話は中断された。
「紗奈に会いに来たみたいだよ。じゃ、おじさんは奥で仕込みしてるから」
「うん。珍しいね。なんかあった?」
「そうじゃないんだけど、誰かと話したい気分で。叔父さんに話聞いてもらっちゃった」
「ふぅん。服部と喧嘩した?」
「え?ううん。してないけど、なんで?」
「美衣に連絡つかないけどそっち行ってないかってさっき電話きた。いるって言っていい?」
「え?!わ!ほんとだ!スマホ充電切れてる!うわー、ごめん!いるって言っていいよ!」
「うん。充電器使いな」
「面目ない」
スマホが復活し、服部から今どこだってメッセージと不在着信がきてるのを見る。謝罪と充電が切れてたことをメッセージで送った。
「え。てか服部もしかして私の事探してる感じ?」
「そうなんじゃない」
「なんで?」
「いや知らんがな」
「あ、メッセージきた。そこおれ。行くって…え?!来るの?!服部病み上がりなんだよ?!」
「熱い男だな、服部。高熱だけに」
「いや言ってる場合か!もう熱下がったとは言ってたけど!」
もしかして私が家に上がらず帰ったりしたからだろうか。わざわざ来てもらうようなことなんて、何もないのに。
「えー、どうしよ。優しいがすぎない?服部…」
「…優しさっていうかさ、愛じゃない?」
「え?」
「美衣に対する服部の行動って、優しさってより愛情に見えるけど」
「あはは。そんなわけないよ。好きとか言われたことないし」
「言葉だけが愛情表現じゃないでしょ」
「…いや、そんな…ええ?」
「まぁ知らんけど」
「ええ!紗奈が言い出したのに!」
なんてやいやい騒いでると、ドアが開いて息を切らした服部が入ってきた。申し訳なさが襲ってくる。
「はっ、服部!駄目じゃん!病み上がりなのに!てかごめん!私が変な態度とったせいだよね?!もうほんと申し訳なっ」
「いっぺん黙り」
「ぶふっ!」
まくし立てる私の顔にペシっと何かを押し付ける服部。それを手に取って見て驚く。買いたかったチョコエッグ。
「すまん、堤。茶1杯貰ってええか?」
「ん。私も仕込み手伝うから、美衣ちゃんと持って帰ってね」
「おおきに。まかしとき」
「は…服部…これ…!なんで?!」
「工藤から聞いたんや。スーパーでなんや言いかけとったって。ちょこえ、まで聞こえとったし、後はお前が好きそうなもんて考えたらそれしかあらへん」
「…ありがとう。めちゃくちゃ嬉しい。服部は本当に、私を喜ばせるのが上手だね」
手の中にあるチョコエッグ。泣きそうになってしまう。もちろん、嬉しくて。
「何があったんか話したくないなら聞かへんけど、1人で落ち込むんはなしやで。気になって夜しか寝られへん」
「あはは。それ通常運転じゃん。…ちょっと嫌なことあって、気分が沈んでただけなの。ごめんね。わざわざ駆けつけてくれたのに大した理由もなくて」
「アホ。いつも呑気に幸せそうにしとるお前の気分が沈むなんて一大事や。少なくとも、俺にとってはな。せやから、謝らんでええ」
「…服部は、私の事さ、バカで幼稚だと思う?」
「はあ?」
「いやごめん!思うよね!自分でも思うもん!わかってるの!」
これ以上服部に何を望んでるんだろう私は。既に贅沢すぎるほどの優しさをもらっているのに。
「チョコエッグ!あけてもいい?中におもちゃのピンキーリングが入っててね!全部可愛いの!」
「ええで」
「やった!何が出るかな〜」
話を変えようと貰ったチョコエッグの箱を開ける。チョコレートの甘い香りが、店内に満ちていく。