6 はぴねす
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マジックショーを生で見たことはなかったけど、簡単なやつを何度か見せてもらったことはあるし、言っても小さなバーの小さなステージでやるショー。そう思ってたのに。
「黒羽ってマジで魔法使いなのでは?」
「アホ。なわけあるかい」
「そうそう。マジックには必ず種も仕掛けもあんだからよ」
「あら。じゃああなた達には彼がどうやってるのかわかるのかしら?探偵さん達」
「そ、それはやな…」
「…調べりゃわかる」
「どうやら、今夜は黒羽くんの勝ちね」
次々に繰り出される黒羽のマジックは本当に魔法を使ってるように摩訶不思議で、店中の人がステージに釘付けだった。
「どうだ?楽しめたか?俺のショーは」
「もちろん!黒羽すっごかったね!」
「ええ。良かったわ。あの人達は悔しそうだけど」
「はは。本当だ。工藤と服部すげぇ顔してる。いい気味だぜ」
「黒羽、お疲れ様。これ叔父さんから」
「堤。サンキュー。マスター!ありがとう!」
黒羽がカウンターの奥に向けて手を振ると、紗奈の叔父さんがにこやかに手を振り返す。
「勝利の1杯は格別だなー!」
「ウイニングラン。ここのマスターは粋な人ね」
「え?どうゆうこと?」
「カクテル言葉だよ。黒羽が今飲んでるカクテルはウイニングラン、そのカクテル言葉が勝利ってわけだ」
「へぇー!そんなのあるんだ!面白い!私にもなんか作ってほしい!」
「ん。叔父さんにお願いしてくる」
「やった!ありがとう、紗奈!」
少しして、トレーに5人分のカクテルをのせた紗奈が戻ってくる。
「叔父さんがみんなのイメージで作ってくれた。これが志保、こっち工藤の」
「ピンクレディだな。カクテル言葉はいつも美しく」
「志保にピッタリだね!」
「あら、ありがとう。工藤くんのはシャーリーテンプル。カクテル言葉は用心深いね」
「バレてんな、工藤」
「うるせぇよ」
「これが美衣の」
「グラスホッパーやな。カクテル言葉は喜び」
「叔父さんには私が喜びに溢れて見えてるってことかな?やったね〜」
水色の可愛いカクテルを手に持つ。生クリームを使ったデザートカクテルだと、服部が教えてくれた。
「堤のはファジーネーブルか。カクテル言葉ないやつだな」
「え?ないの?」
「ファジーネーブルは比較的新しいカクテルだからな」
「好きにつけられるって事だね。超絶最強とかどう」
「すっげぇ頭悪そう」
「服部のは?」
「マルガリータやな」
「え?ピザ?」
「アホ。それはマルゲリータや」
「へぇ。透明で綺麗だね。ちょっと飲んでみてもいい?」
「ええけど、度数高いし、多分そんな好きちゃうで」
ピザみたいな名前のカクテルがどんな味なのか気になって、服部からグラスを受け取る。
「マルガリータ。カクテル言葉は無言の愛、だな?」
「服部にピッタリだな?」
「その顔やめぇ。鬱陶しい」
「…あんま好きくない」
「そう言うたやんけ。爽やかな口当たりやし、グラスの縁に塩も縫ってあるし。野々村の好きな味とはちゃうやろ」
「うん。違った。マルゲリータ食べたい」
「単細胞やの〜」
「そういえばこの近くにレストランが…」
「アホ。何時や思うてんねん。閉まっとるわ」
言われて時計を見れば時刻は22時半。いつの間にこんなに時間が経っていたのかと驚く。
「黒羽、時間進める魔法使った?」
「はは。さすがの俺も時間までは進めれねぇよ」
「時間も忘れるほど黒羽のショーが凄かったって事だね。さすがウチのエース」
「なんで堤がドヤるんだよ」
「わかるよ、紗奈!こんなすごい魔法使いと友達なんて誇らしいよね!」
「うん。黒羽快斗の友達ですって札首から下げて歩きたい」
「やめろ!恥ずかしい!」
「あら。満更でもなさそうだけど?」
「そりゃまぁ…誇らしいとか言われちゃ、嬉しいだろ」
照れくさそうに言う黒羽に、こっちまで嬉しくなる。仕事がひと段落ついたのか、叔父さんが私達のテーブルにやって来た。
「やぁ、みんな。楽しんでるかい?」
「はい!それはもう!」
「はは。それはなにより。黒羽くん、お疲れ様。今夜も最高だったよ。前回以上の反響だ。彼は次いつ出るんだって沢山聞かれたよ」
「ありがとうございます。今夜は負けられない戦いだったので、本気出しちゃって」
「え?黒羽何と戦ってたの?」
「そこの探偵達でしょ」
「いい宿敵だね。どうだろう。君が良ければこれからもここで働いて欲しいんだが。ウエイターとしての君もかなり優秀だったし」
「黒羽、ウエイターもしてたの?」
「うん。なんか会場をよりよく知るためにって、粗毎日バイトに来てた」
全然知らなかった。黒羽は紗奈みたいに遅刻したりしないし、彼女も本人も特に言わなかったし。
「ありがたいお話ですけど、すみません」
「え?!断るの?!なんで?!私、また見たい!黒羽のショー!」
「野々村。悪いな。決まった場所に留まる気はないんだ」
「黒羽。お願い。私まだ、あなたと一緒にいたい」
「堤…お前はまた紛らわしい言い方を…」
「女の子にここまで言われて、まだ怖気付く気?」
「情けねぇぞ黒羽」
「さっさと腹括らんかい」
「お前らなぁ…」
「黒羽。ここにいて」
紗奈が黒羽の手を両手で握る。既視感のある光景だ。彼は観念したように、けれど嬉しそうにため息をこぼす。
「喜んで。お嬢さん」
そう言った黒羽のもう片方の手から、ぽんっと赤い薔薇が咲いた。