5 あたらしいもの
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なんとなく、避けているのかと思っていた。あの日以来、かぶったところを見た事がなかったから。
「なんや工藤。変な顔しおって」
「あ、いや…お前が帽子かぶってんの久しぶりに見たなと思ってよ」
「ああ、ええやろ。野々村にもろうてん」
「へぇ。野々村に?よかったじゃねぇか」
「サプライズしよ思うてたみたいやけど、バレバレでおもろかったで」
「そっか。似合ってるぜ服部」
久しぶりに見たその姿が。見上げるのではなく、同じ目線で見れる事が、なんだかとても嬉しかった。
「何イチャついてんだよ探偵共」
「黒羽。気色悪いこと言うなや」
「話してただけだろ」
「いーや。目と目で通じあってたね!今の雰囲気は!」
「アホらし。ちゅうかお前、なんやその大荷物は」
「ああ、これか?堤に貸す漫画」
「うわ、懐かしい。ガキの頃流行ってたやつだ」
「そうそう。あいつ小さい頃、漫画とか禁止されてたらしくて読んだことないって言うからさ。てか服部、その帽子新しいよな?かっこいいじゃん。ちょっとかぶらせて」
「あかん。これは俺のもんや」
漫画の入った袋を置いて、帽子に手を伸ばす黒羽。その手を思い切り叩き落とす服部。
「いってぇ!何も叩くことねぇだろ!ケチ!」
「勝手に触ろうとするお前が悪いんじゃボケ」
「それ、野々村に貰ったんだってよ」
「マジで?!貰ってんじゃねぇか!プレゼント!」
「おー。お前らの予感的中や。おおきにな」
「うわうぜぇー!工藤!この色黒うぜぇぞ!」
「俺もこの時計、志保からもらったやつ」
「こいつもリア充だった!裏切り者!」
「朝から元気やな、黒羽は」
「堤と映画行ったんだろ?どうだったんだよ」
「別にどうもねぇよ。普通に映画見て飯食って帰った」
ヒーローアニメの映画を見て面白かったから、その原作を貸してもらうお礼に黒羽オススメの漫画をこうして持ってきたらしい。
「そういや工藤、今日宮野は?いつも一緒に来るだろ」
「博士が出席するパーティに同行するとかで、今日は休むってよ」
「相変わらず博士のオカンしとんのやな」
「諸君、おはよう!」
「おはようサマンサ」
「おー、はよ。今日は遅刻しなかったんだな」
「あ!服部、早速つかってくれてる!やっぱめっちゃ似合うね!かっこいい!」
「そらおおきに。今日なんか髪凝っとるやん」
「そうなの!珍しく早起きしたからちょっと頑張ってみました!」
野々村と堤が入ってきて、自分達の前の席へ荷物を置く。髪型の変化を指摘されて笑顔の野々村。それを見て嬉しそうな服部の横顔。
「紗奈、これ言ってた漫画。持ってきたぜ」
「お、ありがとう。想像以上に多いんだが」
「一気に読みたいかと思ってさ」
「それはそう。だけど持って帰る自信がない。え?家まで持ってきてくれる?神か黒羽」
「言ってねぇけど?!つーか、お前は持ってきてねぇのかよ」
「袋には詰めた。努力はした」
「重くて持ってくんの諦めたな?ったく。しゃあねぇな、家まで持ってってやるよ」
「さすが黒羽!ゴットハンド!」
「なにも嬉しくねぇっての」
他愛のない話をしながら、なんて事ない日常の。すっかり気を許してる黒羽の横顔。自然と自分の頬が緩むのがわかった。
「工藤、なんかご機嫌だね?」
「ん?そうか?」
「宮野がいねぇから遊び放題だーって思ってんじゃね?」
「バーロー。そんなんじゃねぇよ。ただ、いいなって思ってよ」
「いいって、何が?」
「お前らが幸せそうでさ」
「…工藤。熱あるんちゃうか?」
「志保と喧嘩でもした?」
「どしたん?話聞くよ」
「なんか企んでんのか?」
「うっせぇな!ったく、なんかふと思っただけだよ。忘れろ」
変な工藤なんて言いながら野々村と堤は前を向く。変なこと言うんじゃなかったと小さくため息をついた。
「お前もな、工藤」
「え?」
「そうそう。俺らも常日頃思ってますよ。大切な名探偵が幸せそうで何よりだってな」
「おめーら…」
「久しぶりに3人で脱出ゲームでもしに行くか?今駅ビルでやってんだよ。チラシにある謎解きが難しいって話題の」
「ああ、あのくそ簡単なやつ」
「あれって子供向けなんじゃねぇのか?」
「この推理オタク共が!」
拗ねてしまったらしい黒羽はムスッとした顔で頬杖をつく。こんなの志保が拗ねた時に比べたら可愛いもんだ。
「なぁ、マジックショーってまだやんのか?」
「来週もう1回やるけど」
「それ見に行っていいか?」
「え?そりゃいいけど…」
「黒羽快斗のマジックショー見んのは初めてやな」
「…服部も来るのか?」
「なんや。あかんのか」
「いや、いいけど…お前らすぐタネがわかるからマジックショー好きじゃないって言ってたろ」
「ああ、言ったな。だから、期待してるぜ?黒羽」
「退屈させんなや」
「…ふん。上等じゃねぇか!度肝抜いてるよ」
ほら、すっかりご機嫌だ。でも言った言葉に嘘はひとつもない。志保もきっと彼のマジックショーなら行くだろう。そう思って、メッセージを送った。
あたらしいもの