5 あたらしいもの
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タピオカを飲んで外に出ると、空はすっかり茜色。時間が経つのはあっという間だ。
「夕日見るとリンゴ飴食べたくならない?」
「ならへんな。りんご飴って美味いか?」
「さては屋台のりんご飴しか知らないな?最近のりんご飴は凄いんだから!専門店だってあるんだよ」
「へぇ。そら知らんかったな」
「今度みんなで行こうよ。色んな味食べたい!」
「おー。…なぁ、野々村」
「ん?」
「今日、楽しかったか?」
予想外の言葉にキョトンとしてしまう。なんでそんなことを聞くんだろう。楽しくないように見えただろうか。
「もちろん!服部は楽しくなかった?」
「いや、めっちゃ楽しかった」
「やった。お揃いだ」
「ほな、2人で行かへん?りんご飴」
「え?いいけど…みんなで行ったほうが色んな味食べれるよ?」
「どんだけ食う気やねん。食べきれんかったら、また行ったらええやろ」
「もしかして、誰かと喧嘩してる?」
「しへてへんわ!誰とも気まずない!みんなが嫌なんじゃなくて、野々村と2人がええって言うてんねん!」
服部の頬がほんのり赤いのは、夕日のせいだろうか。また2人で出掛けたいと思える程、今日が楽しかったって事なら、悪い気はしない。
「じゃあさ!今度は服部のバイクの後ろ乗せてよ!行きたいりんご飴のお店、駅から遠くて」
「ああ、そらええで」
「いいの?!やったー!ずっと乗ってみたかったんだよね!」
「そうなん?早う言うたらよかったやんけ。いつでも乗せたったのに」
「なかなかタイミングなくてさ。彼女でもないのにバイクの後ろ乗せてとか言うの図々しいかなって」
「へぇ。お前でも図々しいとか気にするんやな」
「失礼だな!しますけど!」
実際、服部がバイクの後ろに誰かを乗せてるところは見たことがない。工藤は昔乗ったことあるって言ってたけど。
(ん?前から歩いて来る人、マスクにサングラスに帽子って…花粉症かな)
なんて思いながら、ぶつからないように少し避けつつすれ違おうとした時。持っていた鞄とエコバッグを力強く引っ張られ、奪い取られた。
「わっ?!」
「野々村!大丈夫か?!」
「だ、大丈夫…!って!ひったくり!!」
「ここおれよ!待たんかコラァ!!」
その反動でよろめいた私を服部が支えてくれる。無事を確認してから、すぐに走って逃げたひったくり犯を追いかける彼。
人混みの中をあっという間に追いついて、ひったくり犯を取り押さえたのが見えた。
(すご…咄嗟にあんな早く動けるもん?周りの人みんな、ただ見てるだけだったのに)
騒ぎを聞き付けた交番のお巡りさんにひったくり犯を任せ、私の荷物を持って走って戻ってくる服部。
「ほれ。取り返して来たで」
「あ、ありがとう…」
「なんや。変な顔して。どっか痛むか?」
「あ、ううん!全然!なんていうか、服部ってすごいなって思って」
「そうか?それより、大丈夫と思うけど一応鞄の中身確認しときや」
「はっ!!そうだ!!帽子!!」
服部から受け取ったエコバッグの中身を急いで確認する。せっかくのプレゼントに傷がついてないか心配だったけど、無事のようでほっとする。
「良かった。綺麗なまんまだ」
「…野々村」
「ああ!しまった!!出しちゃった!見た?!見たよね!!サプライズしようと思ってたのにー!!」
「え?ああ、いや、そうやなくて」
「バレたからにはしょうがない!本当はラッピングしたかったけど、これ服部にプレゼント!いつも助けてくれてありがとう!」
「お、おお、そらおおきに」
「え…何その微妙な反応。あんま嬉しくない?」
「ふっ…はは!いや、ちゃうちゃう!ごっつ嬉しいで!けどなぁ、タイミングってもんがあるやろ!」
可笑しそうに吹き出して笑う服部。バレた今以外にタイミングなんてないと思うのだけど。首を傾げる私に彼は言う。
「普通、ひったくりにおうてその鞄が返ってきたら、真っ先に自分の持ち物が無事か確認するやろ。それを俺へのプレゼントが先って…ほんま、そうゆうとこやで」
「あっ!そっか!えっと、財布、スマホ、リップ、手鏡、ハンカチ…うん!無事っぽい!」
「そら何よりや。帽子、おおきにな」
「どういたしまして。けど、本当はもっとちゃんとラッピングして驚かせたかったのになぁ」
「あー、それやけど、わかっとったで。お前がこれ俺にプレゼントしてくれよ思うとったの」
「え?!なんで?!」
完璧な作戦のはずだったのに。心底驚く私に服部は楽しげに笑う。
「あからさまに挙動不審やったやんけ。俺の好み聞き出そうとしたり、強引にほかの店連れてったり、時間かかる列に並ばせたり、トイレとは逆の方向に走り出したり、エコバッグ持って戻ったり。こら俺へのプレゼントを内緒で買いに行っとるなって丸わかりや」
「えー!!めっちゃ最初からバレてるし!言ってよもー!超恥ずかしい人じゃん!」
「すまんすまん。急にデートに誘ってきたんも、その為やろ?どうせ宮野あたりに言われたんやろうけど、わざわざサプライズにせんでもよかったんちゃう」
「見透かされてる〜。だってサプライズってしてもらったらめっちゃ嬉しいから、服部にもしてあげたいなって思ったんだもん」
やっぱり服部を出し抜くなんて私には無理だったか。ちょっと悔しくて口を尖らせながら視線を逸らす。
「嬉しかったで。せやから、黙ってよ思うたんやし」
「そっか!じゃあ良かった!危なかったけどね〜、帽子見に行くまで目的すっかり忘れて楽しんじゃってて」
「…そうなん?」
「そうなんですよ。…って、ああ!私あのカーディガン買おうと思ってたのに!またすっかり忘れてたー!」
「…ほんま、適わんなぁ。また買いに行ったらええやんけ!いくらでも付き合うで!なんなら、買うたろか?」
「え?本当に?!」
「嘘じゃボケ」
「ちょっ、ひどい!!」
思ったようなサプライズは出来なかったけど、なんだかとても嬉しそうな服部。その顔が見れたから、良しとしよう。そう思いながら、家へと向かった。