2 ともだち
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「パフェってなんでこんなに心躍るのかな」
「ビジュが優勝してるからじゃない?」
「お前らなー。課題終わらせに来たんじゃねぇのかよ」
パフェを食べている私と紗奈に、黒羽が呆れ顔で言う。
「課題終わらせる為には糖分補給しないと」
「そうそう。敵に挑むのには装備がないと」
「あ、そう。ったく、後で泣きついてきても知らねぇからな」
「黒羽はもう終わったの?」
「空きコマで終わらせたよ」
「私が教授の手伝いしてる隙に!ずるい!」
「自業自得だろ」
「服部はさっきから何してんの?」
「新聞読んどる」
スマホと睨めっこしてる服部は画面から視線を外すことなく答える。特に興味ないけど会話の流れで聞いてみる。
「面白いニュースあった?」
「野々村がおもろいと思うようなニュースは特にないな。強盗、空き巣、殺人、引ったくり…事件ばっかりや」
「探偵としてはいい事なんじゃないの?」
「アホ。犯罪なんてないのが1番ええに決まっとるやろ。探偵なんて、仕事がないて嘆くくらいの世の中でええねん」
「ま、理想論だよな。日本は比較的平和な方だけど」
「せやな。でかい犯罪組織を壊滅させたところで、この世から犯罪はなくならへんのや」
自分の身の回りの事で精一杯な私には、世界の犯罪の多さを嘆くことなんてないし、なんなら毎日平和だと思ってる。
「そりゃ世界から犯罪なくすとか、そんな大それたこと服部1人には無理だって」
「自分のこと勇者だと思ってる?」
「やかましわ!んな事わかっとるっちゅうねん!」
「わかってるから、自分の無力さに虚しくなっちまうんだよな。厄介な生き物だぜ。探偵ってのは」
「お前に言われたないわ。警察に突き出したろか」
「お、落ち着けよ服部くん。俺ら友達だろ?」
黒羽の胸ぐらを掴む服部。パフェの底に敷き詰めてあるコーンフレークを崩しながら、思ったことを言う。
「服部は勇者じゃなくて魔王なんだから、もっと威張ってればいいのに」
「はぁ?まーだ言うとんかそれ」
「魔王はさ、傍から見たら悪者だけど、絶対配下に有能な子分とか従えてるじゃん。その子分は、魔王に惹かれて自分の意思で仕えてるわけで、だから、えーっと」
「つまり、世界から犯罪はなくせないけど、服部のおかげで助かった人達は絶対にいるんだから、もっと誇っていいのにって事でしょ?」
「そうそれ!!それが言いたかった!さすが紗奈!」
「いや、今のでなんでわかるんだよ…。翻訳家もびっくりだって」
「翻訳のお礼にメレンゲクッキー頂き」
「嘘でしょ?!最後に食べようと思って取ってたのに!」
パフェグラスに残してあったメレンゲクッキーを紗奈に食べられて、ショックで項垂れる。
「私のメレンゲクッキー…」
「ご馳走様。課題やろっと」
「堤って時々人の心無くすよな」
「野々村。お前もさっさと課題やらな日暮れてまうで」
「無理…メレンゲクッキーのダメージがデカすぎる…」
「しゃあないのー。買うて来たるわ」
「え!本当に?!ありがとう服部!頑張れる!」
「相変わらず服部は野々村に甘いねぇ」
「やかましわ。ちゃんと進めときや」
「いえっさー!」
席を立つ服部。俄然やる気になってノートパソコンを取り出す私を見て、頬杖をついた黒羽が言う。
「なぁ、野々村。服部のことどう思う?」
「え?どうって…良い友達だと思うけど」
「そうじゃなくて、男としてだよ」
「男として?色が黒いとか?」
「違ぇよ!あー、もー、なんて言やいいかな〜。ありかなしかって言うか…わかるだろ?!なぁ?堤!」
「え?ごめん。何も聞いてなかった」
「お前はほんと!そうゆうとこだぞ!」
「褒めてくれてありがとう」
「褒めてねぇよ!」
黒羽の言いたいことはよく分からなかったから、考えないことにしてキーボードを叩く。服部の貸してくれたUSBのおかげでスムーズに進むと思ったけど。
「過去の自分が何言いたいのかわからないんだが?!」
「過去って数分前の話だろ?!お前の頭どうなってんだよ!」
「紗奈〜、通訳求む〜」
「今忙しいんで」
「振られたァ!!」
「どや。そろそろ終わって…なさそうやな」
「服部…私は自分の無力さが虚しい…」
「覚えたての言葉使わんでええねん。ちょお見してみ」
私の書いた文章にざっと目を通した服部は、どうやら過去の私の暗号をすぐに解読したらしく、解説を始めた。
「俺のまとめたやつ参考に書いとるから、普段使わん言葉使いすぎて訳分からんことなっとんな。大事なんは理解して自分なりに変換することや」
「な、なるほど!!どうりでいつもより賢そうな文章だと!」
「特にここと、ここ。もっぺん考えて自分の言葉で書いてみ。あとここは全く同じこと書いとるから全削除」
「ああ!!文字数が大幅に減った!!」
「大丈夫やって。訂正したとこから更に考え広がんで。野々村なら。ほら糖分」
「わーい!!ありがとう!!」
差し出されたメレンゲクッキーの袋を受け取って、服部に言われた様にもう一度過去の自分と向き合う。
「お前、先生になれんじゃね?」
「アホ。こんな面倒なこと誰でも彼でも出来るわけないやろ。野々村だからや」
「あ、そうですか。…まぁ、頑張れよ」
「言われんでも」
課題に必死な私達の耳に、黒羽と服部の会話は届かない。彼に貰ったメレンゲクッキーは、今まで食べたどのクッキーよりも美味しかった。
ともだち