2 ともだち
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「やぁ、みんな。おはよう」
「何がおはようだ。もう昼だっての」
紗奈が大学へ来たのは、12時半頃。けれど当の本人は焦る様子などひとつもなく、黒羽の隣の席に座る。
「12時代はまだギリ午前中じゃない?」
「余裕で午後だろうが」
「時に黒羽。今日もイケメンだね」
「はあ?なんだよ急に」
「いやなんて言うか、纏ってる空気がもう違うよね。そこの服部と」
「おいこら。喧嘩うっとんのか」
「特に手なんて神なの?ってくらい輝いてる」
「なっ、何言ってんだよ!頭でも打ったか?!」
黒羽の手を両手でぎゅっと握る紗奈。見てるこっちが恥ずかしくなる程、真っ直ぐ彼を見つめる彼女。
「黒羽…」
「な、なんだよ…」
「私と一緒に働かない?」
「へ?」
「確か、紗奈のバイト先って叔父さんの経営してるバーだったよね」
「そう。ステージがあって曜日ごとに色んなショーをやってる」
「なるほど?そこのステージで黒羽にマジックショーをしてほしいってわけか」
「工藤、大正解」
「だっ…だったらそう言え!!紛らわしいことしやがって!!」
頬を赤く染めた黒羽がばっと紗奈の手を振り払う。きょとんとしてる彼女に服部がニヤニヤしながら言う。
「黒羽は堤が自分のこと口説いとんちゃうかって思うたんや」
「ばっ!違うっつーの!!」
「無理もないわね。あんな熱視線向けられちゃ。今回ばかりは黒羽くんに同情するわ」
「同情すんな!違うって言ってんだろ!」
「間違ってないよ。口説いてる。是非うちの店に!」
「よかったな、黒羽。口説かれてるぞ」
「あーもう!うっせぇな!やりゃいいんだろ!」
「やってくれるの!ありがとう黒羽!!」
「バイト代はちゃんと貰うからな!」
「もちろん!」
紗奈のバイト先には、昔一度だけ遊びに行ったことがある。大人の空間って感じで肩身が狭かったのを覚えてる。
「ほんと助かる。出演予定だったマジシャンが事故で出れなくなっちゃって」
「そりゃ災難だったな」
「一応、その人がやる予定だったショーが、怪盗キッドをモデルとしたやつで衣装とか店で預かってるんけど、使う?」
「い、いや!いい!衣装は自分で持ってくからよ!」
「やればええやんけ怪盗キッド」
「きっと似合うぜ」
「うるせぇぞそこの探偵共」
「あら。私も是非お目にかかりたいわ」
「宮野まで悪ノリすんじゃねぇっての!」
怪盗キッド。数年前に若い女性を中心に人気だった神出鬼没の大怪盗。ある日を境にパタリと姿を見せなくなった今でも、ファンは少なくない。
「今何してるんだろうね、怪盗キッド」
「なんやお前。あのキザなコソ泥が気になるんか」
「え、なに?なんで睨むの」
「キッドといえば、キッドキラーなんてのもいたよね。ほら、小学生くらいの男の子」
「あ!いたいた!眼鏡の!新聞で見た事ある!」
「服部、会ったことあるんじゃない?キッドの事件の時に」
「ああ、あのくっそ生意気なガキな。言うても所詮は小学生や。大したことあらへんかったで」
「結局一度もキッドを捕まえられてないしな」
「お前ら…覚えとけよ」
服部と黒羽を睨む工藤。呆れたような顔の志保。当たり前だけど、私達の知らない時間を、この4人は過ごしてきたんだと思う。
「前からちょいちょい思ってたけど、工藤達ってなんか大きな秘密抱えてそうだよね」
「あ、わかる」
「な、何言ってんだよ。んなもんねぇって。なぁ?服部」
「も、もちろんや。秘密なんてあるわけないがな。なぁ?黒羽」
「お、おう!これっぽっちも!な?!宮野!」
「…逆に怪しいわよあんた達」
「めっちゃ挙動不審」
「100%なんかあるやつ」
仮にも同じ心理学を学んでる私達にそれで誤魔化せると思ったのか。いや、心理学を学んでなくても誤魔化されない。
「あれじゃない?悪の組織と戦うスーパーマンとか!」
「いいね!実は他国のスパイとか!」
「どこかの王子と姫ってのもありじゃない?」
「めっちゃあり!採用!志保が姫なのに異論はないけど、他は王子って感じしなくない?」
「たしかに。じゃあ姫と騎士達だ!」
「それだ!あ、でも待って!黒羽は騎士ってより魔法使いっぽい」
「わかる!じゃあ工藤は賢者」
「じゃあ服部は魔王だ」
「誰が魔王じゃコラ」
「大丈夫!戦いの末味方になるいい魔王だから!」
服部にぐっと親指を立てて見せる。全く納得してないような顔だったけど、お構いなしに妄想を続ける。
「あとは勇者がいるよね」
「勇者か〜」
「野々村と堤でいいんじゃねぇの」
「ありだな。女勇者」
「案外、合ってるんじゃない」
「いやいや、私に勇者なんて荷が重すぎる。森の精霊とかがいい」
「勇者より偉そうなやつ出しやがった」
「私は村酒場の店員がいい」
「今と大して変わらんやんけ」
そんなどうでもいいような、くだらない話で盛り上がってると昼休みも終わりに近づく。もし本当にRPGの世界になったら、きっと私はただの村人ってとこだろう。
「野々村。ぽけっとしてないで早う来い。みんな行ってまうで」
「いえっさー!魔王様!」
「気に入っとんちゃうぞ」
でも、偶然出会った心優しき魔王と仲良くなったり、勇者御一行と友達だったり、ちょっと特別な村人。なんて考えながら、みんなの後を追った。