1 プロローグ
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「え?!見つけた?!」
「うん!あれからSNSで探してみたらさ、仁王先輩ダーツバーやってて!お店のアカウントに本人は載ってなかったけど、友達らしき人のアカウントに写真載ってたから間違いないよ!」
興奮気味に紗奈からそう電話がかかってきたのは、2日後だった。まさかそんな簡単に見つかるなんて。
(てゆうか、すっかり忘れてた。とりあえず名前検索でもしてみるか…)
電話をスピーカーにして、ネットで越前リョーマと検索する。SNSアカウントが出てこないかななんて軽い気持ちだったのに。
「ええっ?!」
「うわ!びっくりした!なに?ゴキでも出た?」
「え、越前くん…先生になってる…青学の…」
「マジで?!」
「うん。青学の公式アカウントがヒットして、そこに載ってる…テニス部顧問、英語教師だって」
「やったじゃん!会えるよ、美衣!」
「学校に会いに行けって?!無理だよ無理!越前くんは私の事覚えてないだろうし」
「じゃあ私の勝ちだね?次の休み、仁王先輩のお店行くから」
「ま、まだわかんないし!写真NGかもだし!」
なんて言ったけど、友達のSNSに載ってたならそんな事はないだろう。電話を終えてため息をこぼす。
(…卒業生ではあるんだし、見に行くくらいなら、いいよね?)
あの越前くんが、先生。かなり意外でどんな風に先生をしてるのか見てみたい好奇心が勝って次の日の仕事終わり、私は10年振りに母校を訪れた。
(うっわー!懐かしいー!!こんなだったこんなだった!)
懐かしさに浸りながら門をくぐる。残念ながらもう部活も終わって生徒達は下校したあとのようだ。
(越前くんの先生姿は見れないかぁ。まぁしょうがない。確か、こっちにテニスコートが…)
記憶を頼りに歩いて行くと、不意に打球音が聞こえた。まだ居残ってる生徒がいるのだろうか。
(練習熱心だなー。青春ってやつだ。どんな子だろ)
ライトに照らされた一面のテニスコート。そこに居たのは白い帽子をかぶった男性。一瞬、あの頃に戻ったような錯覚。
(ああ、そうだ。越前くんも昔、あんな感じの白い帽子を被ってテニスしてたっけ…)
高く上に投げられたボールが、コートの向こう側に置いてある小さな缶に見事命中する。それを見て思わず拍手してしまう。
(はっ!しまった、つい!)
男性がこちらの存在に気付き、帽子をとってぺこりとお辞儀をする。慌てて頭を下げ、顔を上げるとこちらに歩み寄ってくるその人。
(わぁ!こっち来た!ど、どうしよ!怒られる?!)
「どーも」
「ど、どうも!こんばんは!」
「すみませんけど、今日はもう他の教師全員帰ってるんで。何か用ならまた後日来てもらっていいですか」
「あ、いえ!私は…」
フェンス越しにそう言うその人。あの頃より身長は伸びてるし、髪は短い。体つきもがっしりしてる。でも、間違いない。
「越前くん、だよね」
「そうだけど…俺に用ですか」
「用っていうか、その、覚えてない?私、野々村美衣。3年の時同じクラスだったんだけど…」
「…ごめん。覚えてない」
「だよねぇ!そんな仲良かった訳じゃないし!」
「用ないならもういい?」
「あ、うん!練習の邪魔してごめんね!」
「別に。こんなのただの遊びだし」
「遊び方かっこよすぎかって」
とても一緒に写真を撮ってくれなんて言える雰囲気じゃない。でも、会えたし良しとしよう。10年振りの越前くんも、変わらずイケメンで目が潤った。
「…ペン回し」
「ん?」
コートに戻ろうとしていた越前くんが足を止めてそう言った。ラケットを肩に乗せ、顔だけこちらに向ける。
「ペン回し教えてくれってうるさかった、あの野々村?」
「そっ…そう!!その野々村!!えー!嬉しい!覚えててくれたんだ!」
「今急に思い出した。確かあんた、あの時も似たようなこと言ってたから」
「え、言ったっけ?あはは。覚えてないや」
3年で初めて越前くんと同じクラスになって、奇跡的にも隣の席になった時期があった。普段はかっこいいなって眺めてるだけだったけど、ある時彼が手先でクルクルとペンを器用に回してるのを見て、思わず声をかけたのだ。
「本当に同級生ならちょうどいいや。ちょっと付き合ってよ」
「え…」
少し退屈で幸せな平凡な日々。それがこれからも続いていくと信じて疑わなかった。明日の事なんて、誰にもわからないのに。
プロローグ