1 プロローグ
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
幼稚園の頃、将来の夢はケーキ屋さんだった。小学校は漫画家、中学校はアパレル店員、高校はお金持ちの旦那と結婚すること。
歳を重ねる度に、何者かになる難しさを知って。大学ではそれなりに条件のいい会社に就職出来ればそれでいい、なんて。夢とも呼びがたい思いを抱くようになって。
そして、大人になった今。未だ何者にもなれず、どの夢も叶えられていない私は今日25歳になった。
「おめでとう、美衣!」
「ありがとー!紗奈!わざわざ仕事終わりにこっちまで来てもらってごめんね」
「何言ってんの!誕生日なんだからそれくらいお安い御用!」
大学時代からの友人とビールで乾杯する。昔はお洒落なカフェやお店で映える料理なんかと写真を撮ったものだけど。
「仕事終わりのビールが1番美味しい〜!」
「それなぁ。安くて美味いが最強」
今じゃジョッキ片手に居酒屋で焼き鳥を頬張っている。社会人になって3年。仕事にも慣れて、似たような毎日を過ごしてる。
「今年こそ彼氏ほしい」
「いやほんとそれ。社会人は出会いがないって聞いてたけど、こんなにもないとは思わなかった」
「マジでないよね。この歳にもなるといい男には既に相手がいるし」
「それなぁ?!学生の時もっと頑張っとけばよかったよ〜」
「わかるー!何かしら繋がっとけばよかったってめっちゃ思うー!」
仲良かった人とも、環境が変われば自然と連絡をとらなくなって、疎遠になった人は沢山いる。大人になって気づくんだ。人との繋がりの大切さを。
「今頃何してるのかな〜。越前くんとか絶対いい男になってるよなぁ」
「なになに?好きだった人?」
「中学の時ね。帰国子女でクールでテニスがすごく強くて、爆モテだった」
「うわ、ハイスペックー!中学の時好きだった人か〜。私はやっぱり仁王先輩!ミステリアスでイケメンで、同じくめっちゃモテてて!仁王先輩もテニス部だった!」
「紗奈、中学は立海だっけ?強豪じゃん」
「そうそう。でも美衣が通ってた青学に負けたんですけどねー?」
「そうなの?詳しいね」
「試合見に行ったからね」
でもお互い、仲良かったとかそんなんじゃなくて。ただの同級生と、先輩と後輩。きっと彼等は私達の事なんて覚えてないだろう。
「楽しかったなぁ。今こっち見たとか目が合ったとかすれ違ったとか、そんな事で一喜一憂して」
「懐かしいねぇ。越前くんがよく飲んでたファンタ、真似して飲んだりしてたな」
「したした!ヘアゴムの色お揃いにしたり!」
「でも、越前くんに対しては何もしなかった。告白も。悔やまれるー!今ならもっと上手くアタック出来るのにー!」
「同じくー!今ならワンナイトくらいワンチャンー!」
「現実的!!」
そんな話で盛り上がりながらお酒は進む。大企業ではないものの、安定した収入があって、誕生日を祝ってくれる友人がいて。幸せだと思う。けれど、もっと刺激がほしくなるのは人間の性ってやつだろう。
「ね、勝負しない?」
「え?勝負って、なんの」
「どっちが先に昔好きだった人に会えるか」
「ええ?!無謀すぎない?!」
「いいじゃん!やるだけやってみようよ!面白そうじゃん!美衣も今の越前くんに会ってみたいんでしょ?」
「そりゃまぁ…わかった!やろ!」
「決まり!会えたら証拠にツーショット撮ること!それ以外は自由って事で」
「了解。じゃあ負けた方は駅ビルに出来たケーキバイキング奢りね」
「のった!負けないんだから!」
お酒の勢いもあって、そんな約束をしてしまったけれど。きっと決着がつくことはないだろう。でも、それでいい。
こうやって少しづつ、できる範囲で刺激を与えながら代わり映えのない日々を生きていく。きっとこれからも。
そしてそれは、決して不幸なんかではない。眩しいくらいに輝いていたあの頃と比べれば、見劣りはするかもしれないけれど。
平凡がいかに幸せか、今の私は知っているから。
1/2ページ