そしてあっという間に夜になった。俺はこの小屋で一晩泊まることになった。
一晩過ごす決まりは、決して声をかけられても返事したり、出て行ったりしてはいけないということだった。それを破ってしまったらどうすることもできないと神代さんから念押しされた。
俺はビクビクしながら朝を待った。
しばらくはスマホをいじったりしていたが、だんだんと睡魔が襲ってきた。このまま朝まで眠ってしまおう。と思ったその時だった。
コンコン。誰かが小屋の扉をノックした。俺はビクッとしながら息をひそめた。
「岡田、様子はどうだ？」
俺は「何でもないです」と答えようとした。しかし、神代さんの言葉を思い出す。
（俺は絶対に小屋にはいかない。もし俺が来たらそれは偽物だ）
俺はとっさに手を口に当てて返事をしないようにした。
「おい！岡田、返事しろ！岡田ぁ！」
神代さんらしき声がだんだんと強くなる。それと同時にドアを叩く音が乱暴になった。
ダンダンダンダン……
俺は恐ろしくなって布団をかぶった。
「ドアを開けろ！……なあ返事をしてよ。……ねぇ顔を見せてちょうだい……」
聞こえてくる声が徐々に男から女に変わっていった。
俺は直感でこの女の声は人魚様の声と思った。
身体の震えがと止まらない。
布団に丸まりながら大人しく朝を待とうとしたその時だった。
「うっ……。オエッ……！」
突然の吐き気に襲われて、大量の髪の毛と血を吐き出してしまった。
（うそだろ……？こんなときに）
不愉快な吐き気は休む暇もなく次々と襲ってくる。パニックになってしまい、うまく吐き出すことができない。
口内に無数の髪の毛と血がたまっていく。
口から零れ落ちた髪と血がまるで自分を闇に引きずり込むようだった。
「グっ……ゴホッ、ゴホッ。ガハッ……」
ああ、今度こそだめだと、俺の意識はここで途切れた。