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ベレニケと真珠星【スピカを置き去り スピンオフ】

その日を境にして日に日に口の中から出てくる髪の毛が増えていった。
俺は日ごとに増えていく髪の毛に恐怖した。
始めは一日のうち一回か二回、ほんの数本の髪の毛だけだった。自分の髪がたまたま口に入ったかなと思い、特に何も思わなかった。 
しかし、それは日がたつにつれてそれは一日5回、10回と増えていき、口から出る髪の毛の本数も何十本と増えていった。
日に日にひどくなるその現状に参ってしまった。
そして、俺は確信していた。
これは「人魚の呪い」だと。
あの日、儀式で使われた髪を燃やしたから人魚様の怒りを買ってしまった。
俺は少し後悔した。でも何もかも遅かった。
食事もろくにとれる状態ではなかった。何かを食べたり飲んだりするたびに一緒にあの忌々しい髪も体内に取り込まれるのではないかを思ったからだ。また、その恐怖で眠ることもできなかった。寝ているうちに髪の毛を食べてしまうのではないかと気が気ではなかった。
俺の体は極限状態までに達していた。
そしてあるとき、限界はきた。
ある日俺は、フラフラになりながらいつか授業のレポートを提出しに講義を担当している教授の研究室まで足を運んだ帰りのことだった。
急に胃から上がってきた吐き気に我慢できず近くにあったトイレに駆け込んだ。
「ゴホッ……ゴホ、ゴホッ……うっ」
俺はこみあげてくる何かに我慢出来ずにそれをトイレの洗面台に吐き出した。
「はあっ、はあっ……」
ヒューヒューと息を切らしながら吐き出したものを見た。
それは赤黒い血を纏った何十、何百もある髪の毛の固まりだった。その血は自分の血なのかも怪しかった。髪の毛に血が混じることは初めてだった。
「ひっ……」
俺はその場を離れようとしたが次から次へとこみ上げて来る嘔吐感を抑えきれずにその場から離れることができなかった。
休む暇もなく口から出てくる髪と血。
十分に息もできなかった。
やばい……もうダメだ……死ぬと意識が途切れそうになった瞬間、誰かが慌ただしくトイレに入ってきた。
「おい!ちょっと大丈夫か?」
「……神代(じんだい)さん」
同じ研修室の先輩でもある神代さんがなぜか目の前にいた。
「どうしたんですか……」
「それはこっちが言いたいよ。研究室棟の廊下を歩いていたらなんか苦しそうな声が聞えたからトイレに入ってみたら……」
神代さんの声が途切れた。そうかこんな有様だもんな。
洗面に広がる無数の髪と血。
「一応聞くけどこれは……?」
「自業自得ってやつです」
神代さんは、はぁ……とため息をついた。
「俺の家で話を聞いてやる。だからちょっとジッとしてろ」
そう言ってその残骸を片付け始めた。片づけが終わった後、彼に支えられながら神代さんの家まで行った。
そこは古くとも威厳がある神社だった。
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