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ベレニケと真珠星【スピカを置き去り スピンオフ】

約束の時間になり、駅の噴水前で待っていた。駅についてみるとポツポツと雨が降ってきた。俺は持ってきた傘をさす。しばらくするとカルロスがやってきた。
「ごめん。待った?」
「いいや、大丈夫だ」
「ちょっと雨降ってきたね。駅の中で待ち合わせすればよかったかな」
「そんなことないぞ。早く行こう」
俺たちは他愛もない会話をしながら美術館に向かった。美術館につき、俺とカルロスは企画展を楽しんでいた。一枚一枚、絵を見ているとふと一枚の絵が目に飛び込んできた。
「……ん?なんだこれは」
その絵は小麦畑でたくさんの収穫物に囲まれて立っている女の絵だった。タイトルは「豊穣と乙女」というものだった。食い入るように見ていると、「俺はその絵の画面の奥にいる存在に気が付いた。
それは「人魚」だった。
俺は人魚の存在に気付いた後、その絵を嘗め回すようにじっくり見た。
畑……たくさんの収穫物……豊穣の象徴。そして人魚。
ある一つの答えにたどり着いた。
……これはあの「人魚の儀式」を模したものだ!
俺は全身の血が沸騰するような感覚に襲われた。
国が違えども、あの伝承は確かにあった。そのことを実感し、俺はひどく興奮した。
俺が食い入るように絵を見ていると何かを察知したカルロスが声をかけてきた。
「……大丈夫?黒斗くん」
俺は突然のカルロスの声に、ハッと我に返った。
「ああ。大丈夫」
「そう、ならよかった。次行こう」
俺は絵を横目に見ながら、カルロスの後について歩いて行った。一通り館内を見て回り、美術館に併設されている喫茶店で軽く食事をした。
「色んな絵があって面白かったね。黒斗くんはどうだった?」
カルロスは運ばれたサラダにドレッシングをかけながら聞いた。
「俺も面白かった。しかも一個大きな収穫があったからな」
俺はあの「豊穣と乙女」の絵を思い出してニヤニヤした。
「ふふっ。それはよかった」
カルロスはそれ以上何も追及してこなかった。俺たちは閉館時間までずっと話し込んでいた。
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