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スピカを置き去り

 ミナトは愛した女の亡骸を抱きしめることもなく、しばらくの間その場を離れなれなかった。すると、背後から気配がした。
「久しぶりですね。ミナトさん」
 そこにいたのはかつて知恵を与えた赤い女が立っていた。
「あなたは……」
「挨拶をしている暇はなさそうね。それ、どうするの?」
 赤い女はサラだったものを見た。
「わかりません。これからどうしたら……。殺人の罪で捕まって死罪になるしかないのかもしれません。僕は多くの人に恨まれている。それが一番いいかもしれませんね…」
 ミナトは捨てられた子犬のように怯えた声で答える。
「でも、ただ死罪になる、死ぬだけで罪が償えるかわかりません。僕は彼女を殺しただけではなくほかにも多くの罪を犯した」
それは始めからだったかもしれない。
 村を救おうと新しい小麦……スピカを作り出したこと。それは神の領域に手を出したことと同じ。
 スピカの利用価値に目をつけて利益を独占したこと。
 村人たちが自分に逆らえないとわかると、それをいいことにこの村を支配したこと。
 そして、愛する人をこの手で殺したこと。
「僕は…どうすれば…」
 ミナトは涙を流すしかなかった。
「ミナトさん。あなたは人魚の伝説を本当に信じる?」
「え……?」
 いきなり何を言い出すんだ。と赤い女を見る。
「人魚の不老不死。重い罪を償うために長い命を必要とする……」
 それは、この村の信仰である人魚信仰の大きな考えでもある重い罪を背負ったものほど永い命が必要であること。永い命を手にする方法はただ一つ。
「そう。人魚の血を飲めば不老不死となるわ。罪を償いながら永遠の命を消費する。これは死よりも苦しいこととなる」
「永遠に罪を償う……」
「どうする?死して、一瞬で罪をなかったことにするか。それとも苦しい闇の中罪を償い続けるか」
 
彼はその禁忌に手を伸ばした。
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