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スピカを置き去り

夢と現実の挟間で声が聞こえる。
金色の豊穣の丘に立つ君の声が首を絞める。



「ぼーっとしていないでこっちに来て手伝ってよ」
「サラ…」
 サラと呼ばれた若い女はたくさんの収穫物が入った大きな籠を抱えていた。
「また絵を描いていたの?」
 彼女は少し呆れながら目線を落としミナトの手元を見る。その絵は古い木の板に布を張っただけの粗末なキャンバスに描かれていた。
「この風景を描いていたんだ」
 金の麦畑とその周りを取り囲む収穫された野菜や果物、そして。
「この真ん中は…私?」
「さあ…。どうだろね」
「もう。意地悪言わないでよ。分かってるんだから」
 サラは恥ずかしそうに赤い顔で笑った。
「…それと一番奥にいるのが人魚様ね」
 彼女は画面の奥を指さした。
「うん。やっぱりこの村の大事な…神様みたいな存在だからね」
 人魚。
 この村では一神教の宗教のほかにもう一つ大事な信仰がある。
 人魚信仰。
 人魚の血肉を食べると不老不死となる伝説を信仰する宗教である。人は生まれながらにして罪を背負っている。罪を償い続けるために長い命が必要となる。その罪が大きければ大きいほどより永い命が要るのだ。だから永い命…不老不死をもたらす人魚を信仰する。
 ミナトはこの村の信仰の対象である人魚を描いたのだ。
「あら、これは何?」
 サラは野菜や果物の山の中から一つの果実を指さした。
 それは血が滴るような真っ赤な瓜の果実だった。
「それは…僕の理想の果実だよ。…君はこの瓜が好きだろう。もっと甘くておいしい果実を君に食べさせたいんだ。」
「本当に?」
「ああ、本当だよ。何年、何十年かけてもいい」
「そして、理想の果実が完成して、お金持ちになったら……サラに言いたいことがあるんだ」
 この言葉を聞いてサラは目を細めて笑った。

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