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スピカを置き去り

「どうしてそれを湊が?」
 銀星は予想外のことに頭が追いつかなかった。
「それはこの絵は僕のものだからだよ」
「絵の持ち主……。それだけではないでしょう?」
 旭が何かを確信した目を向ける。
「そうだね。彼女の言う通りこの絵は正確には僕が昔描いたものさ」
「どういうことだ?その絵は何百年の前のものだろう?湊がその絵を描けるわけない」
 銀星は湊に問いかける。湊は少し悲しそうな顔をした。
「銀星は人魚の伝説を信じるかい?」
「人魚の伝説?いきなり何を……」
「そうだよね。いきなり何を言い出すんだって驚くよね。でも大事なことなんだ。改めて聞くよ、銀星」
「……人魚の血肉を食べると不老不死になるって聞いたことない?」
「…!」
 それは、旭がかつて話した伝説。一つの嫌な答えが浮かび上がる。それは、あり得ないことだった。
「湊は人魚の血肉を食べた?でもなんで…」
「そう。僕は罪を犯して不老不死という罰を受けた。永遠に罪を償うために」
「罪…?」
「これが僕の罪だよ」
 湊は上書きされた部分を爪で削った。指と爪の間から血がにじんで見えた。
 むき出しになったありのままの絵には目もくらむような金色の麦畑と真っ赤な果実が残されていた。
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