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スピカを置き去り

 最終日。銀星は湊にバイトの後会えないかと誘った。彼にはバイトがあるから断られると思ったが、彼は承諾した。今日は展覧会最終日のため、職員の人たちは慌ただしく片づけをしていた。銀星も例外なく片づけを手伝っていた。彼は一つ一つの絵の埃をとる作業をしていた。
 そして、全ての元凶の絵……「豊穣と乙女」の埃を取ろうとふと手を伸ばすと、そこには何も飾られておらず。ただ空虚がそこにあった。
「あの、ここにあった絵は?」
 銀星は近くにいた職員に聞いた。
「ああ、その絵ね。今日朝早くにその絵の持ち主が来て、引き取りに来たのよ」
「持ち主が?」
「ええそうよ。その絵の展示期間は昨日まででね。元々そういう契約だったのよ」
「そう……なんですね」
 銀星は焦った。あの絵がなければ意味がないのに。どうすることもできないまま時間だけが過ぎていった。
 そして、重い気持ちのまま最後の勤務が終わり、湊との約束の時間になった。場所は美術館の中庭だ。
数日続いた雨はなくなりきれいな夜空だった。
 バイトが終わり中庭のベンチで待っていると旭がやってきた。
「旭さん。すみません。あの絵持ち主の人が持って行ったみたいで」
 旭は臆することのなく、あのいつもの微笑みを向けた。
「大丈夫よ、もうすぐ来るから」
「どういうことですか?」
 銀星は旭の言葉に驚いた一瞬。
 コツ、コツ。
 足音が中庭に響き渡り、闇の中、外灯に照らされて湊が姿を現した。まるでスポットライトを浴びた主役のようだった。手には大きな荷物を抱えていた。湊は荷物を包んでいる布をパッと取った。
「探しているのはこれだろう。銀星」
 その手には「豊穣と乙女」があった。

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