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スピカを置き去り

 5日目になった。銀星はいつも通り見回りをしていた。
「旭さん。今日も来ているのかな」
 始めは真っ黒な薄気味悪い女だと思っていたがたった2回、少し話しただけで恋焦がれている自分がいた。
「さすがに3日連続で来ないよな…」
 銀星は落胆し、今はバイト中だと言い聞かせて見回りに集中した。そしていつの間にか例の絵の前にきた。
 昨日はよく調べることができなかったので、詳しく絵を調べようと上書きされた個所に近づく。
また頭に雷鳴が走ったような痛みがやってきた。
「また、この痛み…」
 とっさに銀星は絵から離れる。彼が頭を押さえて痛みが引くのをジッと待っていた瞬間。
 コツ、コツ…。
 ズル…ズッ、ズル…。
 何者かの足音と何か濡れたものを引きずる音が聞こえた。
 彼はとっさに振り向いたが、そこには誰の姿も見えなかった。
「誰かいるのか!」
 銀星は叫んだ。しかし囁き一つ返ってこなかった。
 そしてあたりを見渡す。自分以外誰もいない。ただ一つあるのは激情に任せ花瓶を落としたような濡れた床だけだった。
「なんだったんだ、今のは……?」
 彼はふと絵を見る。すると画面の奥底から覗く人魚と目があった。
 得体のしれない痛み。濡れたものを引きずる音…。
 銀星は一つの仮説が浮かび上がった。
「人魚の…呪い……。」
 外では雷の音が響き渡っていた。

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