スピカを置き去り
3日目。その日も昨日のように見回りをしていると、薄暗がりの中、ある絵の前に一人の女が立っているのとに気付いた。薄い闇の中、人工的な緑色の非常灯に照らされて立つ女の姿は恐ろしく不気味なものを感じた。しかし、閉館時間は過ぎている。怖いという感情を押し込めて、注意しようと銀星はその女に近づいた。
「すみません。もう閉館時間過ぎているのですが…。」
声をかけられた女はゆったりと振り返った。
「ごめんなさい。この絵に見惚れてしまって。」
女は、とろけるように目を細めて上品に笑った。その微笑みに少し心臓が跳ねる音がした。女は長い黒髪で毛先に少しウェーブがかかっており、瞳はその白い肌を際立たせるような少し赤みがかかった茶色をしている。また、着ている服の真っ黒なワンピースだった。全身が闇に覆われたような恰好をしているが、喪服のような重苦しさはなく漆黒を飼いならしているようにその女に似合っていた。銀星はまるで絵画から出てきたような女に目を奪われてしまったが、ハッと我に返った。
「閉館時間を過ぎているので、正門が閉まっています。職員用の出入り口がありますのでそちらから退館願います」
「あら、ごめんなさい。本当に夢中になってしまって……。出入り口まで案内お願いできるかしら?」
「はい。大丈夫ですよ。こちらです」
銀星は女を職員用の出入り口まで案内した。外は少し雨が降っていた。
「気をつけてお帰りください」
「ありがとう。また来るわ」
そう言って女は背を向けて帰って行った。その姿を彼はしばらくの間じっと見つめていた。
女の姿が見えなくなると、館内に戻り女が見ていた絵が気になって見てみた。
その絵は、とある農場で一人の女が農作業をしている絵だった。農民の女は金色の麦畑と収穫した野菜や果物に囲まれていた。絵のタイトルは「豊穣と乙女」だった。その絵は当時描かれた民の様子を描いたものだった。銀星は絵に近づいて見てみると画面の奥に農民の女とは別の存在に気が付いた。上半身は人間、そして下半身は魚の姿をしていた。
「なんだこれ…。人魚か?」
「どうしてこんな日常の様子を切り取った絵に?農民の間で伝承として伝わっていたのか。それとも何かの信仰としてあったのか…」
彼は不思議に思い、興奮気味に絵に近づいた。
そして、絵との距離が紙一枚分ほどになった瞬間。
「いッ…ったあ!」
ズキンと痛みが襲った。彼はとっさに絵から離れた。
「痛ッ。なんで頭が…」
銀星は突然雷に撃たれたような痛みを感じた。
「……久しぶりのバイトで疲れているのか……」
しかし銀星は、この痛みは慣れないバイトで疲れているからだと思った。その日は手早く見回りを済ませ帰宅した。
「すみません。もう閉館時間過ぎているのですが…。」
声をかけられた女はゆったりと振り返った。
「ごめんなさい。この絵に見惚れてしまって。」
女は、とろけるように目を細めて上品に笑った。その微笑みに少し心臓が跳ねる音がした。女は長い黒髪で毛先に少しウェーブがかかっており、瞳はその白い肌を際立たせるような少し赤みがかかった茶色をしている。また、着ている服の真っ黒なワンピースだった。全身が闇に覆われたような恰好をしているが、喪服のような重苦しさはなく漆黒を飼いならしているようにその女に似合っていた。銀星はまるで絵画から出てきたような女に目を奪われてしまったが、ハッと我に返った。
「閉館時間を過ぎているので、正門が閉まっています。職員用の出入り口がありますのでそちらから退館願います」
「あら、ごめんなさい。本当に夢中になってしまって……。出入り口まで案内お願いできるかしら?」
「はい。大丈夫ですよ。こちらです」
銀星は女を職員用の出入り口まで案内した。外は少し雨が降っていた。
「気をつけてお帰りください」
「ありがとう。また来るわ」
そう言って女は背を向けて帰って行った。その姿を彼はしばらくの間じっと見つめていた。
女の姿が見えなくなると、館内に戻り女が見ていた絵が気になって見てみた。
その絵は、とある農場で一人の女が農作業をしている絵だった。農民の女は金色の麦畑と収穫した野菜や果物に囲まれていた。絵のタイトルは「豊穣と乙女」だった。その絵は当時描かれた民の様子を描いたものだった。銀星は絵に近づいて見てみると画面の奥に農民の女とは別の存在に気が付いた。上半身は人間、そして下半身は魚の姿をしていた。
「なんだこれ…。人魚か?」
「どうしてこんな日常の様子を切り取った絵に?農民の間で伝承として伝わっていたのか。それとも何かの信仰としてあったのか…」
彼は不思議に思い、興奮気味に絵に近づいた。
そして、絵との距離が紙一枚分ほどになった瞬間。
「いッ…ったあ!」
ズキンと痛みが襲った。彼はとっさに絵から離れた。
「痛ッ。なんで頭が…」
銀星は突然雷に撃たれたような痛みを感じた。
「……久しぶりのバイトで疲れているのか……」
しかし銀星は、この痛みは慣れないバイトで疲れているからだと思った。その日は手早く見回りを済ませ帰宅した。