スピカを置き去り
雨が窓ガラスを叩く音がする。ずっと前から砂嵐のような轟音が耳を犯す。雨粒がいくつもの筋を作って流れ星のように走る。
この数日間、雨の日が続いており梅雨の始まりが肌でわかるようだ。今日は春の寒さがまだ感じられる日だった。
銀星(ぎんせい)は、大学の食堂で雨粒が走る様子をぼんやりと眺めていた。すると、コツコツ…と遠くのほうから足音がして、彼の目の前で音が止まった。銀星がふと顔を上げると1人の男が立っていた。
「なに。ぼーっとしているんだい?」
男は跳ねるような声で話しかけた。
「いや…。別に。何でもない」
「まったく銀星はいつもクールだね。ああ、ここ座っていい?」
男は答えも聞かず銀星の向かいに座った。
「いいって言ってないのに…。勝手な奴だよ。湊は。」
湊(みなと)と呼ばれた男は琥珀色の髪と黒に少し青色が混ざった瞳を持ち、彼がとろけるように微笑めば、どこか異国の貴族から施しを受けたと錯覚してしまうような甘い容姿をしていた。彼が言うには、母方の曽祖父が西方の異国の人だったらしい。
「あははっ。でも僕が勝手ことをしても君は許してくれるんだよね。」
「なに言ってんの。というか何しに来たの」
銀星は湊のへらへらとした態度にムッとした。
「今日は君に用があってきたんだよ。君、短期のバイトする気ない?」
「短期のバイト?」
銀星は眉をひそめて湊の言葉を繰り返した。
「そう。大学の近くに市立の美術館があるだろう。そこで企画展があるんだけど、閉館後の警備のバイトを探しているんだ。」
「閉館後の警備のバイト?」
銀星は少し湊の話に興味を持った。彼は数か月前にバイトをやめていた。切羽詰まるほどお金には困っていないが、この雨の日々が過ぎて夏が迎えに来たら夏休みが始まる。大学生の夏休みは長い。遊びや帰省にはお金がたくさん必要になる。少しでもお金が欲しかった。
「バイトの内容は閉館作業の手伝いと閉館後の見回りだけさ。だいた時間は夕方5時から8時くらいかな。もともとは僕にきたバイトなんだけど僕には別のバイトがあってね…。代わりを探していたんだ。期間は来週の土曜日から企画展が終わるまで。どうかな?」
「別に悪くないけど…」
バイトの内容自体は悪くない。そう難しい作業内容ではないし、時間帯も夕方からであるため授業を休む必要もない。ただ、一つ重要なことを確認しなければいけない。
「このバイトを引き受けるのに大事な質問がある。時給は?」
湊はニヤリとしてピースサインをした。
「2000円。どう?破格だろ」
銀星の心は決まった。
この数日間、雨の日が続いており梅雨の始まりが肌でわかるようだ。今日は春の寒さがまだ感じられる日だった。
銀星(ぎんせい)は、大学の食堂で雨粒が走る様子をぼんやりと眺めていた。すると、コツコツ…と遠くのほうから足音がして、彼の目の前で音が止まった。銀星がふと顔を上げると1人の男が立っていた。
「なに。ぼーっとしているんだい?」
男は跳ねるような声で話しかけた。
「いや…。別に。何でもない」
「まったく銀星はいつもクールだね。ああ、ここ座っていい?」
男は答えも聞かず銀星の向かいに座った。
「いいって言ってないのに…。勝手な奴だよ。湊は。」
湊(みなと)と呼ばれた男は琥珀色の髪と黒に少し青色が混ざった瞳を持ち、彼がとろけるように微笑めば、どこか異国の貴族から施しを受けたと錯覚してしまうような甘い容姿をしていた。彼が言うには、母方の曽祖父が西方の異国の人だったらしい。
「あははっ。でも僕が勝手ことをしても君は許してくれるんだよね。」
「なに言ってんの。というか何しに来たの」
銀星は湊のへらへらとした態度にムッとした。
「今日は君に用があってきたんだよ。君、短期のバイトする気ない?」
「短期のバイト?」
銀星は眉をひそめて湊の言葉を繰り返した。
「そう。大学の近くに市立の美術館があるだろう。そこで企画展があるんだけど、閉館後の警備のバイトを探しているんだ。」
「閉館後の警備のバイト?」
銀星は少し湊の話に興味を持った。彼は数か月前にバイトをやめていた。切羽詰まるほどお金には困っていないが、この雨の日々が過ぎて夏が迎えに来たら夏休みが始まる。大学生の夏休みは長い。遊びや帰省にはお金がたくさん必要になる。少しでもお金が欲しかった。
「バイトの内容は閉館作業の手伝いと閉館後の見回りだけさ。だいた時間は夕方5時から8時くらいかな。もともとは僕にきたバイトなんだけど僕には別のバイトがあってね…。代わりを探していたんだ。期間は来週の土曜日から企画展が終わるまで。どうかな?」
「別に悪くないけど…」
バイトの内容自体は悪くない。そう難しい作業内容ではないし、時間帯も夕方からであるため授業を休む必要もない。ただ、一つ重要なことを確認しなければいけない。
「このバイトを引き受けるのに大事な質問がある。時給は?」
湊はニヤリとしてピースサインをした。
「2000円。どう?破格だろ」
銀星の心は決まった。