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掌篇集

「ぼく、おねえちゃんとけっこんする!」
 なんて、言ってくれたのは幼稚園の時だったか。
 ご近所のまーくん。たしか、真くん。
 12歳年下の可愛い男の子。
 何故だかとっても懐いてくれて、我が家に一人で遊びに来ることもしばしば。お母さまには平謝りされたけれど、まーくんはいい子でうちの母は久しぶりの幼子にテンション上がりまくりで逆にお礼を言っていたり。まーくんは、居間で勉強する私の隣で折り紙やお絵描きやひらがなドリルなんかをやっていて、本当に大人しい子だった。それを言ったらお母さまは何故か唖然としていたけれど。
 小学校に上がっても、私をゆき姉ちゃんと呼んで慕ってくれて、それはそれは可愛い弟だった。
 だけど、やはり。
 思春期というものがくるわけで。
「俺、もう姉ちゃんて呼ばないから」
 と、中学の学ランに身を包んだまーくんに言われた私は、一人しょぼくれながら缶チューハイなど呷っているわけで。
 ああ、あの舌っ足らずに「ぼく」と言っていたまーくんが「俺」。
 「ゆき姉ちゃん」と呼んでくれていたのが、「ゆきのさん」。
 さ、さみしい……。
 これもまーくんの成長の証、大人の階段なのだとわかっていても、もっともっと子供のままでいて、と思ってしまうのは親目線だろうか。
 きっと、まーくんはどんどん成長して、ご近所さんの私となんてすぐ疎遠になって、可愛い彼女が出来て結婚をしてしまうだろう。
 寂しいけれど仕方のない話。
 そうなったらどこか道で行きあった時に、「昔は『お姉ちゃんと結婚する!』って言ってくれたのにねぇ」なんて近所のおばちゃんムーヴで笑い話にでも出来るだろうか。
 ああ、寂しい。まだまだ子供で居てほしい。

 そんな風に思いながら酒を過ごして二日酔いになってから数年後。
 成人した誕生日にまーくんに告白されるとは夢にも思わないゆきのだった。
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