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掌篇集

 坂道を駆け下りる。両手に握ったバーに上への力を感じ、大地を蹴った。足元から地面が消え、空へと飛び上がる。
 眼下に広がるのは陽光に輝く新緑と、咲き誇る野の花々。
 耳元で風が唸る。大気が圧となって体を撫でる。
 頭上のグライダーが風を受け、力強く体を支える。
 ほんの束の間、風に乗り重力の軛から逃れ、自由を謳歌する。最高の瞬間だった。
 ハング・グライダーは飛翔ではなく滑空である。自由はつかの間で、着地用のベースに降り立つことになる。
 それを残念に思うと同時に、幾ばくかの安堵も感じる。やはり、翼持たぬ身では空にあることは爽快感と同時に緊張をもたらすのか。
 だが、降り立った後はいつも、すぐに次のテイクオフに心が浮き立つのだ。

「ね、だから一緒にやってみようよ。二人で飛ぶこともできるからさぁ」
「高所恐怖症が今の話で『わぁ素敵!』ってなるはずねぇだろ一人でいけ。俺は地面から足を離さない」
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