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掌篇集

 今日は、こと座流星群の極大日らしい。
 それを朝のニュースで知って、夜、なんとなくマンションの屋上庭園に上がった。
 日頃星に興味があるわけでもなく、思い出といえば小学五年生の時。夏休みに行ったこども会のキャンプで、流れ星を見た。
 その時隣には幼馴染がいて、二人で願い事をした。あいつは願い事を教えてくれなかったが、俺も教えなかった。
 そして今日も、隣にはあいつが居る。
「ええ、なんで居るのぉ……」
「こっちのセリフなんだけど」
 でかいレンズのついた一眼レフを三脚に設置していたあいつは、毛布とコーヒーのポットとおにぎりという完璧な装備を用意していた。俺はつっかけに寝間着代わりの高校のジャージ姿である。
「朝のニュースでこと座流星群のことやってたから、見えるかなーと思って来たんだけど」
「一緒か」
「写真撮るの?」
 この一眼レフは、多分あいつのオヤジさんのものだ。運動会なんかで構えてるのを見た記憶がある。
「長時間露光で撮るんだよ。お前、近くでスマホとかいじるなよ」
 屋上庭園は夜間は本来立入禁止なので、灯りも非常灯くらいしかついていない。幼馴染は律儀に管理人さんに許可をとったそうだ。俺は入り口の鍵が壊れてるのを知っているので何も言っていない。鍵が壊れていることも言ってない。
 幼馴染はなんとキャンプ用のマットまで持ってきていたので、二人で寝転がり空を見る。
「あんま流れないね」
「こと座流星群はそんなに数多くないんだってさ」
 一時間に十個くらいらしいよ、と彼は言った。なるほど、見逃しそう。
「なぁ、昔キャンプで流れ星見たの覚えてる?」
「小五の夏休みの時? 覚えてるよ」
「あの時の願い事ってさぁ、写真のこと?」
 幼馴染は、写真家になりたいのだという。今は父親のカメラを借りているが、バイトして自分のカメラを買おうとしている。
 だから、あの時の願い事はそれに関することじゃないかと、俺は思っていたのだ。
「違う」
「えー、マジでー?」
「写真のことは俺がやり遂げることだから、願っても仕方ない」
「やだ格好いいこと言うじゃん……」
 肩パンされたけれど、俺は本当に格好いいと思ったのだ。
「え、じゃあ何お願いしたの?」
 聞けば、沈黙がかえる。
「小五の時だし、もう教えてくれても良くない?」
「…………お前が言うなら、俺も言う」
 まぁ、そうだよね。俺でもそう言うわ。
「俺はねー、お前とずっと一緒に居られますようにってお願いした」
「…………は?」
「あの頃、中学受験する奴とか出てきて、不安だったんだよなぁ。お前とはなればなれになっちゃうんじゃないかって」
 結局、高校まで腐れ縁で、大学も絶賛腐れ縁続行中だけど。俺は嬉しかった。
 俺は、こいつが好きなので。
 まー、こいつは、気づいてませんけど。
「……そういうことは、星じゃなくて俺に言えよ」
「えっ」
「俺もだよ。お前と一緒に居たいって、思ってた」
 友人としてだよな? 勘違いしそうになるからそういうこと言うのやめてほしい! 嬉しいけど!
「……俺もお前に言えばよかったんだよな、星じゃなくて。なぁ、俺とずっと一緒にいてくれよ」
「い、いいよ!」
「死ぬまで」
「望むところ……死ぬまで!?」
 え、長くない? いいの? 俺嬉しいけど?
 灯りのないこの場所では闇に慣れた目でもあいつの表情はいまいちわからなくて、少しでも知りたくて目を凝らす。
「お前の隣は俺の席だから、誰も座らせんじゃねぇぞ」
「う、うん」
「……お前ちゃんと意味わかってるか?」
「えっ?」
「お前が好きだって言ってんだよ俺は。くそ、もっと早く言っときゃよかった」
 手が握られて、びっくりして体が跳ねる。驚きすぎ、と幼馴染は笑って、俺の手を握る力を強めた。
「お前も俺のこと好きだろ」
「ひゃい!?」
「来るもの拒まず去るもの追わずのお前が『ずっと一緒に居たい』なんて思うの俺くらいだからな。お前は俺のことが好き。はい復唱」
 それは洗脳では!? 好きだけど!
「ま、待って、落ち着いて考えさせて。え、お前、俺のこと好きなの? いつから?」
「んー、割と初めてあった頃から」
「言ってよ!」
 消え入るような声で「俺もすき……」と伝えると、彼は「やっぱ星なんかじゃなくお前に言うべきだった」と悔しそうに呟いた。
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