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掌篇集

 君と通った小道に咲いていたたんぽぽの押し花。
 花に厚みがあって作るのは大変だった。あの日は散歩している大きな犬に君が興奮して、撫でさせてもらって目をキラキラとさせていた。いつか犬を飼いたいと、笑っていた。

 君と食べたケーキ屋さんの箱のリボン。
 季節限定のシャインマスカットを使ったショートケーキが食べたいと言っていたのに、いざお店に行ってみたらタルトも食べたいと悩んでいた。一つずつ買って半分こした。

 君の誕生日を祝ったレストランのショップカード。
 料理はもちろん美味しかったし、お店の方が好意でサプライズに出してくれた小さなケーキに君は目を輝かせていた。僕の分もあげたらぺろりと完食していた。

 君が好きな作家の新刊を買っていた本屋のしおり。
 5年ぶりの新刊だとはしゃいで、平積みされた売り場のポップに感動して、店員さんに許可をもらって写真を撮っていた。新刊の宣伝用のしおりは、たまたま二枚重なっていたからと僕にくれたもの。

 君とお花見に行った帰りに買った桜餅の包み紙。
 桜の花はきれいだったけれど、人の多さに疲れて早々に帰路についた。その途中、普段通らない道で見つけた和菓子屋さんで買った桜餅。持ち帰り用に綺麗な桜色の和紙に包んでくれた。今では度々買いに行くお店だ。

 君と一緒に散歩した公園で拾った綺麗なもみじの葉。
 近場で紅葉狩りにでも、と訪れたいつもの公園で、「どっちが綺麗な葉っぱを見つけられるか勝負!」と君が言い出して、なぜだか最後には近くで遊んでいた小学生まで巻き込んで綺麗な葉っぱを探していた。小学生たちと一緒にはしゃぐ君は子供のようで、結局勝負は有耶無耶になって、みんな自分が拾った葉っぱをお土産に帰っていった。

 そんな、たくさんの小さな、ともすればゴミと言われてしまうようなものが、近所のケーキ屋さんのクッキー缶の中には入っている。
 このクッキー缶も、君が買ってきて一緒に食べたもの。
 そんなものまで取ってるの? って君は笑うけれど、それぞれ見ればその日のことが思い出せる。
 君と出会ってから少しずつ増えていく小さな思い出は、これからも増え続けて、きっとこのクッキー缶には入り切らなくなるだろう。
 僕は、その日が楽しみなのだ。
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