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掌篇集

 調子が悪いな、とは思っていた。
 時々フリーズするし、勝手に再起動かかるし、電源入れてなんでかBIOS画面出たりするし。
 それでもだましだまし使っていたノートパソコンが、突然のブルースクリーンからの沈黙。
 電源ボタンを長押ししようがバッテリーを入れ直してみようが、痛いほどの沈黙。
「もう駄目だーーーー!!!!!」
 この中には、来月締切の卒論の資料からなにから全部入っていたのだ。
「予想できた未来過ぎて草。そこまで駄目ならせめてクラウドにバックアップ取っとけよ」
「なんなのお前は俺を追い詰めたいの!? もっと優しくして! 慰めて!」
 パソコンの状態を相談していた友人のところに駆け込んだものの、彼は無常にも「いやもう無理だろコレ」と死刑宣告を告げる。
 ガチ泣きしている俺に引いている友人は、ため息をついて渋々というのを隠す様子もなく「データだけでも取り出せないか試してやるから泣きやめ」と吐き捨てた。
「は? 神か?」
「出来るかわかんねぇぞ」
「俺は今悪魔にでも縋りたいんだ。やってくれ。金は出す」
「ちょっと待ってろ」
 それから友人が何をやっていたのか、俺にはわからない。なんせ、クラウドもよくわからない機械音痴である。
 俺にはパソコンに向かって作業する彼が、物語の中のスーパーハッカーに見えていた。
「やっぱ無理だわ。ディスクがおしゃかになってら」
「嘘だろー!? ここはお前が華麗に解決して俺が歓喜に咽び泣きお前を崇め奉るところでは!?」
「現実は非情なんだよ」
 終わった。今からまた資料を集めて論文を書き直すのか。いやまぁ、機械音痴だから資料は紙のがあったりもするんだけれど、ちまちま慣れないタイピングで書いてきた論文はいちからである。
 灰になってしくしく泣いている俺に、友人は何やら四角い箱を渡してきた。
「何コレ」
「外付けHDD。ひと月前、お前がそれ見せに来たときに、念の為データのバックアップ取っといた。ひと月分の遅れなら、まだどうにかなるんじゃね?」
「神!!!!」
「うるさ」
 俺は友人に抱きついて、感謝の気持を込めてほっぺたにチューをした。殴られた。
「早く新しいパソコン買え」
「どれ買えばいいかわかんないから着いてきて!」
 ため息を付き、文句を言いながら、なんだかんだ俺に付き合ってくれる優しい友人に、卒論提出したら寿司か焼肉を奢ろうと心に決めるのだった。
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