このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

掌篇集

 弟と二人ゲームをしていたら小腹が空いて、コンビニでホットスナックを買った帰り道。
「ねぇ、これなんだっけ」
 弟の人差し指が示す先には、小さなトゲトゲした芋虫がいる。
「ええー、なんだろ。アゲハチョウ……はもっと大きいか。モンシロチョウとかかな。ググれば」
「え、無理。画面ででかい写真で見るのは無理。あと写真出たら画面触れない」
「お前苦手なのか平気なのかわかんねぇな」
 本物眼の前にしても平然としてる割に、そんなことを言う弟は、検索する俺のスマホ画面を覗き込んで「うぇー」とか呻いている。
「やっぱモンシロチョウっぽい」
「そっかー。こんなとこに居ると鳥にくわれちまうぞ、葉っぱの方いきなー」
 落ち葉と枯れ枝を器用に使って芋虫を草むらに戻す弟。やっぱりお前の苦手の基準わかんないわ、俺。
「いいことしたわ」
「わかんねぇぞ、『あっちの草むらに行きたかったのに戻された!』って思ってるかもよ」
「あー、やめろよそういう事言うの!」
 お前も肩パンやめろ。痛い。
「モンシロチョウが飛んでると春だなって思うよな」
「そうだな。実際春に飛んでんのかわかんねぇけど」
 チューリップとちょうちょの組み合わせは春だと刷り込まれている気がする。
「なー、明日花見行こうぜ」
「桜はもう散ってるだろ」
「花ならなんでもいいじゃん。兄貴、桜が咲いてる時帰ってこねぇんだもんなぁ」
 学生のお前と違って社会人のお兄様に春休みはないんだよ。
「なんだ、寂しかったんか?」
「そーーじゃねぇけどぉーーーーー」
 完全に口調が拗ねている。道理で帰省してからこっち、妙に絡んでくるはずである。
「じゃー、親父に車借りるかー。お前、どこ行くか調べとけよ」
「わかった!」
 弟の尻に盛大に振られる犬の尻尾の幻覚が見える。うい奴め。
 花畑には、モンシロチョウは飛んでいるだろうか。
 そんなことを考えながら、俺達はのんびり家路を辿るのだった。
5/46ページ
スキ