掌篇集
「あれ、午後雨の予報だったのに明日にずれてら。せっかく傘持ってきたのになぁ」
スマホに通知された明日の天気予報を見ながら、お弁当のミートボールを口に放り込む。
すると、隣から大きなため息。
「天気予報みたいに、人の機嫌も予報があればいいのにねぇ」
しょぼくれながらそう言ったのは、近年稀に見る不機嫌な部長に八つ当たり気味に企画にダメ出しをされた聡子だ。
今は、会社近くの公園で、二人で遅めのランチ中である。
「そうだねぇ……」
部長は普段は感情的になる事は殆ど無い人だが、本当に、本当に珍しく今日はあからさまに機嫌が悪かった。
そして、たまたま締切の近い仕事を持っていた聡子が犠牲になったのだ。
「なんか、聞いた話によるとさ、部長の娘さんに初彼氏が出来たんだって」
「え、あの部長が溺愛してる娘さん? カナちゃん、どこからそういう情報仕入れてくるの」
「いや、庶務の新人ちゃんいるでしょ、若い子。あれ、彼氏。部長にバレたって頭抱えてたから」
「うっそマジで?」
「マジマジ」
多分、彼氏がうちの会社の人間だったのもショックだったんだろうなぁ、という気もする。それにしたって、仕事には関係ないのだから弁えてほしいものである。
「あーあ、昨日の夜とかにさ。『明日の部長の機嫌は大荒れ。娘の彼氏発覚で、過去最低です。触らぬ神に祟りなし、明日は部長にはかかわらないようにしましょう』とか教えてもらえたらさ、私企画書の提出明日に回してたもん」
「誰が教えてくれるのよ」
「えー、神様?」
都合のいい神様である。
私はお弁当を食べ終わって、ランチバッグに容器と箸をしまう。
「まー、部長の機嫌予報は出来ないけどさ。聡子の機嫌ならわかるかも」
「私の?」
「そう。『今日の聡子の機嫌はしょんぼり落ち込み気味。部長に怒られて低調です。でも、仕事終わりにカナ様に黒猫亭のガトーショコラを奢ってもらって復活するでしょう』どう?」
「……復活するぅ。カナちゃん好きっ」
抱きついてくる聡子に「私のときはチーズケーキよろしく」と言えば、明るい笑顔が返ってくる。
聡子は落ち込んでいるより笑顔の方がいい。
あとで部長の所業を娘さんにチクッておこう。なんと、社内行事の時に、こんな事もあろうかと娘さんと連絡先を交換していたので。
翌日、娘さんに叱られてガチ凹みした部長が聡子に謝っていた。
うむ、人脈は各方面に作れるだけ作っておくものである。
スマホに通知された明日の天気予報を見ながら、お弁当のミートボールを口に放り込む。
すると、隣から大きなため息。
「天気予報みたいに、人の機嫌も予報があればいいのにねぇ」
しょぼくれながらそう言ったのは、近年稀に見る不機嫌な部長に八つ当たり気味に企画にダメ出しをされた聡子だ。
今は、会社近くの公園で、二人で遅めのランチ中である。
「そうだねぇ……」
部長は普段は感情的になる事は殆ど無い人だが、本当に、本当に珍しく今日はあからさまに機嫌が悪かった。
そして、たまたま締切の近い仕事を持っていた聡子が犠牲になったのだ。
「なんか、聞いた話によるとさ、部長の娘さんに初彼氏が出来たんだって」
「え、あの部長が溺愛してる娘さん? カナちゃん、どこからそういう情報仕入れてくるの」
「いや、庶務の新人ちゃんいるでしょ、若い子。あれ、彼氏。部長にバレたって頭抱えてたから」
「うっそマジで?」
「マジマジ」
多分、彼氏がうちの会社の人間だったのもショックだったんだろうなぁ、という気もする。それにしたって、仕事には関係ないのだから弁えてほしいものである。
「あーあ、昨日の夜とかにさ。『明日の部長の機嫌は大荒れ。娘の彼氏発覚で、過去最低です。触らぬ神に祟りなし、明日は部長にはかかわらないようにしましょう』とか教えてもらえたらさ、私企画書の提出明日に回してたもん」
「誰が教えてくれるのよ」
「えー、神様?」
都合のいい神様である。
私はお弁当を食べ終わって、ランチバッグに容器と箸をしまう。
「まー、部長の機嫌予報は出来ないけどさ。聡子の機嫌ならわかるかも」
「私の?」
「そう。『今日の聡子の機嫌はしょんぼり落ち込み気味。部長に怒られて低調です。でも、仕事終わりにカナ様に黒猫亭のガトーショコラを奢ってもらって復活するでしょう』どう?」
「……復活するぅ。カナちゃん好きっ」
抱きついてくる聡子に「私のときはチーズケーキよろしく」と言えば、明るい笑顔が返ってくる。
聡子は落ち込んでいるより笑顔の方がいい。
あとで部長の所業を娘さんにチクッておこう。なんと、社内行事の時に、こんな事もあろうかと娘さんと連絡先を交換していたので。
翌日、娘さんに叱られてガチ凹みした部長が聡子に謝っていた。
うむ、人脈は各方面に作れるだけ作っておくものである。