このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

掌篇集

「たとえ間違いだったとしても、進まねばならない時が男にはあるのだ……!」
「立ち止まる、勇気も、必、要だと思う……」
 私の言葉がとぎれとぎれなのは、呼吸困難になる勢いで笑っているからである。
 涙目でなんかかっこよさげなことを言った彼と私の前には、先ほど二人で作った味噌ラーメンがある。そして、彼のラーメンのその上には、こんもりと盛り上がった唐辛子の山。
 何が起こったのかといえば単純で、彼がラーメンに瓶入りの七味唐辛子をかけようとしたら中蓋が外れ、中身全てが一気にラーメンに降り注いだのだ。そしてそれを見ていた私、爆笑。タイミングの悪いことに昨日新品を下ろしたばかりだった。一昨日ならば、同じことが起こっても傷は浅かったろうに。
「あー、笑った。それ、交換しよ。もったいないし」
「スミマセンアリガトウゴザイマス……」
 しおしおとうなだれて、彼は自分の唐辛子ラーメンを私の方に押し出した。案ずるなかれ。彼は辛さ耐性一般人だが、私は蒙古タンメン中本の北極を完食する女である。
 私のラーメンを彼に渡し、スープが真っ赤になってなんかじゃりじゃりしてるラーメンを食べる。うん、普通にイケる。
「うわぁ……」
 恐れ慄く彼は、食べてもいないのにまだ涙目である。
「そんなんでよくこれ食べようと思ったね」
「う……だってもったいないし、俺がやらかした事だから君に尻拭いさせるのはどうかなって思ったから……」
 私は少し笑って、味噌とは言い難い色をしたスープを飲む。啜ると流石に噎せる。
「食べ物大事にするところは好きだけどね。そんなに気負わなくていいんじゃない? 私だってこれからいーっぱい迷惑かけるし、お互い様でしょ」
「……そうかな。俺のほうが迷惑かけそう……」
「そんなことないと思うけど。まー本当にそうなったら、パステルのプリンで手を打ってあげよう」
「了解しました!」
 それ以来、彼が私に謝る時はパステルのプリンが手土産の定番になった。
 同じ苗字になって二日目の、お昼時の思い出。
19/46ページ
スキ