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掌篇集

「欲望は果てしないよねぇ」
 人をダメにするソファに寝そべりながらポテチを食べつつビールを飲むという、堕落という言葉を体現したような姿の彼女はそう言った。説得力がすごい。
「なんなの、次は何が欲しいの」
「んー、別に欲しいわけじゃなくてさー。いや欲しいんだけどね?」
 ソファからよっこらせとばかりに起き上がった彼女は、私を手招きする。なんだ、そのソファに二人は流石に難しいぞ。
「ここ、座って」
 自分の足の間を叩く彼女に、首をひねりながらも従って、私は彼女の両足の間に座る。
 最初彼女の方を向いていたら向きを修正され、彼女に背を向ける形に。
「よいしょー」
「わっ!」
 彼女に引き寄せられて、後ろから抱きしめられる。私は、彼女の立てた膝に両腕が引っかかってずり下がるのをしのいでいるような体勢である。
「最初はさあ。見てるだけでいいと思ったんだよね。でも、君が告白してくれて、恋人になれて」
 なにそれ初耳。ダメ元で告っといてよかった。
「君と恋人ってだけで毎日幸せだったのに、離れてる時間が惜しくて一緒に住むようになって」
「待って、君、家賃もったいないから一緒に住もうって言ったよね?」
「毎日君の一番近くに居られて、もうこれ以上なんにもいらない、って思ってたんだけどさぁ」
 お、無視か? 後で詳しいところ聞くからな??
 詳細の尋問を決意していると、彼女は私の左手を取った。
「あたし、君のこれからの人生全部欲しくなっちゃったの」
 その言葉と、左の薬指に感じる硬質な感触に息を飲む。
「あたしと、結婚してください」
 身動き取れないくらいにぎゅうぎゅう私を抱きしめてくる彼女に、無理やり振り向けばその顔は真っ赤で、今にも泣きそうな不安顔。
 思わず笑った私を、彼女が恨めしげに睨む。
「そんなの、喜んで、以外あると思う?」
 抱きしめてキスすると、堰を切ったようにわんわんと泣き始める。
 彼女が泣き止んだら、私が買った指輪も嵌めてもらおう。
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