掌篇集

 サクラチル。
 滑り止めの大学からの不合格通知を手に、僕はため息を付いた。
 本命の国公立より少し偏差値の高い大学とはいえ、滑り止めに落ちていては話にならない。
 奮起して机に向かう――という気にもなれず、ベッドに体を投げ出したところにスマホに着信が来た。
「はいはい〜」
『よぉ、どうだった』
 相手は一つ年上の幼馴染。僕は起き上がらぬままに答えた。
「だめだったー」
『まじか。あー、まぁ、今年はあそこ倍率上がったって話あったしなぁ』
「やめてよー僕が行く年に上がんなくてもいいじゃんー」
 模試の結果で倍率はある程度わかっては居たが、実際上がったらしく僕はぼやいた。
『他の大学で受かってるとこはあるんだろ? 気楽にいけよ』
「あるけど、都内だもん。そっちに行くには国立かここしかないのにさ」
 僕が拗ねた声を出すと、電話の向こうで笑う気配がした。
『そんなに俺に会いたい?』
「会いたいよ。…………その、今まで毎日顔合わせてたのに、半年に一回しか会ってないしさ」
 即答して、すこし恥ずかしくなって、言い訳がましくごにょごにょと言葉を続ける。
『はは、嬉しいよ。俺も、いつお前が来てもいいように部屋引っ越したんだから、ちゃんと合格しろよ』
「え、なにそれ聞いてないんだけど」
『俺と一緒に住むならっておふくろさん折れたんだけど、知らなかった?』
「そんな事一言も聞いてないんだけど!? だから急にOK出たの!?」
『俺、めちゃくちゃお前のおふくろさんに信頼されてるからな』
 最初、家から通えるところでいいだろうと反対されていたのが、急にOKが出たのはそういうことだったのか。
『親公認で同棲出来るんだから頑張れよ』
「……ん、頑張る」
 それから少し雑談してから通話を切って、僕は机に向かった。現金なもので、勉強するやる気が出てきた。
 4月、桜咲く中で幼馴染と一緒に歩くために、頑張ろう。
 サクラチルのはこれが最後だ。
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