掌篇集
隣からぐすぐすと鼻をすする音が聞こえる。
眼の前のモニタには長いスタッフロールが流れている。
とりあえず、映画館の雰囲気を出すために消していた部屋の明かりを点けて、温かいココアでも淹れようとキッチンに向かった。彼もそのうち落ち着くだろう。
タイタニックを見たことがないと恋人が言うものだから、配信サイトでレンタルして上映会をしたのが今日。
私は公開当時に映画館で見たきりだったので、そういえばこんな話だったな、と思いながら見ていた。
「……ありぁと」
ホットココアを彼の目の前に置いたらば、感謝の言葉が返される。どうしたことか、さっきよりも泣いている。
ティッシュを箱ごと手渡すと、彼はぼろぼろと泣きながら訴える。
「僕、僕はね、絶対死なないからね」
「なんでそんな話になったの」
「だって君、僕が死んだら絶対僕を忘れて他の男と幸せになるでしょ! そんなんやだ!」
恋人は怒り泣きだったようで、ふくれっ面のままティッシュで涙を拭い、派手な音を立てて鼻をかむ。
「だから、僕は絶対君より先に死なない。君を看取る。そんで次の日に死ぬ」
「そこは君、『僕のことは忘れて幸せになってくれ』とか言うところじゃない?」
「ぜっっっったいにやだ。一生忘れないで。僕だけ愛して」
うーん、愛が重い。いや、執着か? どちらでも大した違いはないし、予想通りでもある。
だが、少々遺憾ではある。
「君、私がさっさと他の男に乗り換えると思っていたんだな」
そう言うと、きょとんとした顔が向けられる。
あ、これ本気でそう思ってたんだな。
「君みたいな重たい男、一生連れ添う覚悟でもなければ交際をOKするわけ無いだろう」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔に、笑う。
「君が思っているより、私は君のことを愛してるぞ」
それこそ、君が死んでも愛し続ける程度にはね。
眼の前のモニタには長いスタッフロールが流れている。
とりあえず、映画館の雰囲気を出すために消していた部屋の明かりを点けて、温かいココアでも淹れようとキッチンに向かった。彼もそのうち落ち着くだろう。
タイタニックを見たことがないと恋人が言うものだから、配信サイトでレンタルして上映会をしたのが今日。
私は公開当時に映画館で見たきりだったので、そういえばこんな話だったな、と思いながら見ていた。
「……ありぁと」
ホットココアを彼の目の前に置いたらば、感謝の言葉が返される。どうしたことか、さっきよりも泣いている。
ティッシュを箱ごと手渡すと、彼はぼろぼろと泣きながら訴える。
「僕、僕はね、絶対死なないからね」
「なんでそんな話になったの」
「だって君、僕が死んだら絶対僕を忘れて他の男と幸せになるでしょ! そんなんやだ!」
恋人は怒り泣きだったようで、ふくれっ面のままティッシュで涙を拭い、派手な音を立てて鼻をかむ。
「だから、僕は絶対君より先に死なない。君を看取る。そんで次の日に死ぬ」
「そこは君、『僕のことは忘れて幸せになってくれ』とか言うところじゃない?」
「ぜっっっったいにやだ。一生忘れないで。僕だけ愛して」
うーん、愛が重い。いや、執着か? どちらでも大した違いはないし、予想通りでもある。
だが、少々遺憾ではある。
「君、私がさっさと他の男に乗り換えると思っていたんだな」
そう言うと、きょとんとした顔が向けられる。
あ、これ本気でそう思ってたんだな。
「君みたいな重たい男、一生連れ添う覚悟でもなければ交際をOKするわけ無いだろう」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔に、笑う。
「君が思っているより、私は君のことを愛してるぞ」
それこそ、君が死んでも愛し続ける程度にはね。