掌篇集
見上げた空は見事に晴れていて、見渡す限り雲一つない、気象庁も太鼓判を押すような快晴だった。
そんな空とは正反対に、私の気分は地面を突き破ってマントルまで行っちゃいそうな憂鬱。天気に例えたら土砂降りの大雨。
こんな時は、晴れてる空も憎たらしく思える。
今日はなんにもない普通の日だけれど、昨日は違った。
美容院で髪を切って、アイスを食べて帰ろうと思ってた。
美容院に行ってみれば、いつも担当してくれる美容師さんが急なお休みで、担当してくれた人は馴染みのない人。
不安は的中で、眉より下ってお願いした前髪は見事に眉毛の上で切り揃えられていて、私はショックで絶句した。
アイスを食べる気になんてならなくて、家に帰って布団の中に引き籠った。
「短いのも可愛いわよ」ってお母さんは言ってくれたし、私もまぁまぁ悪くはないって思ってる。
でも、前の髪型はあいつが可愛いって言ってくれたんだ。
私は、「短い前髪も可愛い私」じゃなくて、「あいつが可愛いって言ってくれた私」でいたかった。
それが、昨日の話。
私の気分が最低でも時間は進むし前髪はすぐには伸びない。短い前髪をため息をつきながらセットして、こうして学校に向かってるけれど、足取りは重い。気になって、ずっと手のひらで前髪を撫で付けてしまう。
「よ、おはよ」
「あ、おはよ」
声をかけてきたのはあいつ。いつも、学校へ行く途中の交差点で行合う。
二人で歩きながら、やっぱり気になって前髪をいじっていると、当然あいつに気付かれるわけで。
「髪どうかしたん?」
「う……ん、ちょっと、前髪切りすぎちゃって」
「前髪? そうかぁ?」
あいつが私の顔を覗き込んできて、前髪を隠してた右手をどかされる。
「あー、確かに前よりは短いけど、可愛いじゃん」
「……………ほんと? ほんとに可愛い?」
「ん? おう。そんなんで嘘つかねぇって」
可愛いって。可愛いって!
現金なことに、その瞬間から私の心は虹までかかりそうな勢いで晴れ渡った。
今度は前髪のかわりに、緩む頬を両手で隠しながら歩く。
「……ほんとに可愛いなお前」
「え? なんか言った?」
「んーや」
「そう? 今日、いい天気だね!」
憎たらしく思えていたこの快晴の空も、今は清々しく思えるのだった。
そんな空とは正反対に、私の気分は地面を突き破ってマントルまで行っちゃいそうな憂鬱。天気に例えたら土砂降りの大雨。
こんな時は、晴れてる空も憎たらしく思える。
今日はなんにもない普通の日だけれど、昨日は違った。
美容院で髪を切って、アイスを食べて帰ろうと思ってた。
美容院に行ってみれば、いつも担当してくれる美容師さんが急なお休みで、担当してくれた人は馴染みのない人。
不安は的中で、眉より下ってお願いした前髪は見事に眉毛の上で切り揃えられていて、私はショックで絶句した。
アイスを食べる気になんてならなくて、家に帰って布団の中に引き籠った。
「短いのも可愛いわよ」ってお母さんは言ってくれたし、私もまぁまぁ悪くはないって思ってる。
でも、前の髪型はあいつが可愛いって言ってくれたんだ。
私は、「短い前髪も可愛い私」じゃなくて、「あいつが可愛いって言ってくれた私」でいたかった。
それが、昨日の話。
私の気分が最低でも時間は進むし前髪はすぐには伸びない。短い前髪をため息をつきながらセットして、こうして学校に向かってるけれど、足取りは重い。気になって、ずっと手のひらで前髪を撫で付けてしまう。
「よ、おはよ」
「あ、おはよ」
声をかけてきたのはあいつ。いつも、学校へ行く途中の交差点で行合う。
二人で歩きながら、やっぱり気になって前髪をいじっていると、当然あいつに気付かれるわけで。
「髪どうかしたん?」
「う……ん、ちょっと、前髪切りすぎちゃって」
「前髪? そうかぁ?」
あいつが私の顔を覗き込んできて、前髪を隠してた右手をどかされる。
「あー、確かに前よりは短いけど、可愛いじゃん」
「……………ほんと? ほんとに可愛い?」
「ん? おう。そんなんで嘘つかねぇって」
可愛いって。可愛いって!
現金なことに、その瞬間から私の心は虹までかかりそうな勢いで晴れ渡った。
今度は前髪のかわりに、緩む頬を両手で隠しながら歩く。
「……ほんとに可愛いなお前」
「え? なんか言った?」
「んーや」
「そう? 今日、いい天気だね!」
憎たらしく思えていたこの快晴の空も、今は清々しく思えるのだった。