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掌篇集

「あれが夏の大三角形。はくちょう座のデネブ、こと座のベガ、わし座のアルタイルです。白鳥座のデネブとこと座のベガは、ある物語の主人公でもあります。知ってる人ー」
 若い女性教師は、天井に映し出された人口の星空について解説する。投げかけられた教師の問いに、即席のプラネタリウムとなった教室で、幼い生徒たちがちらほらと手を上げる。
 そのうちの一人を教師が指名すると、当てられた男子生徒は「七夕の織姫と彦星です」と答えた。
「正解です。星座はギリシャ神話、織姫と彦星は日本や中国のお話です。世界中で、星空と繋がった物語が生まれていることがわかりますね」
 そこで、チャイムが鳴り響いた。
「今日の宿題は、世界の星にまつわる神話や物語を一つ調べてくる事! 今日やったギリシャ神話や七夕のお話でも良いですし、他の国でも構いませんよ」
 教師は声を張り上げ、生徒たちはそれに返事を返しながらも三々五々に教室をあとにする。
 その中で、一人の生徒が教師に質問に来た。
「先生、今は新しく星座は作られないんですか?」
 教師は、少し考えて首を振った。
「そうですね。地球では、20世紀に今も伝わっている88星座が制定されて、それ以来公式な星座は増えていません」
 星空の投影が解除された教室は、一面の壁が窓になっている。その窓から見える『星空』に、教師は視線を向けた。
「でも、数年前に入植が始まった火星では、火星88星座が作られているところらしいですよ」
「え、名前ダッサ……」
「そういうこと言わない」
 有人の惑星間航行が可能になってから百と数十年。テラフォーミングの技術革新により、人類はようやく地球外の惑星へとその住処を広げ始めていた。
「ここから見える星から星座を作っちゃだめかな」
「いいんじゃないでしょうか? 作るのは自由です。でも、惑星上で見たときと違って、私達が動いてしまっているので、自分の位置も記録して考えたほうがいいかもしれませんね」
 この教室は、太陽系外の惑星への入植を目的とする移民団の宇宙船の一室にある。この窓から見える『星空』は、日々わずかずつ変わって居るのだ。
「うん、気をつける」
「作ったら私にも教えてくださいね」
 その後、生徒は友人たちとともに、「化け猫座」「プリン座」といった星座を作り出していく。
 教師は面白がって船の航海士たちにそれを見せ、よく考えるものだと微笑ましく見守っていた。
 まさか、その後数十年経って惑星間航路となったその道で、その星座たちが非公式ながら目印として語り継がれていくとは夢にも思っていないのだった。
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