敵同士の恋5題
「僕はいつかあなたを迎えに行きます」
そう宣言されたのは、戦が完全に終結する2回前の戦場でだった。
雇い主が負けたことを悟ったアンジェラは、敗走に徹した。
傭兵の彼女にとって、雇い主は金づるであって主君ではなく、忠義なんていうものはない。
このまま戦場に残っても、金がもらえるわけでもなく、残党狩りに会うだけ。
勿論それで負けるアンジェラではないけれど、無駄な人殺しをするのは面倒だった。
前金を抱えて戦場となった平野から逃げる最中、彼女は最後に彼と戦えなかったことを悔いる。
戦いたかった。
金の髪を持つ、愛しい人と、最後に。
もう会えないのだと思うと泣けてくる。
じんわりと浮んでくる涙を拭って、アンジェラは平野から近くの町へ抜ける森を駆けた。
だが、そんな彼女に追っ手がかかる。最も多くの者を斬った彼女が、追われぬはずがなかった。
追いすがる者を斬り捨てながら、女は心の片隅で彼が追って来てくれることを望んでいる。
そして、その望みは叶えられた。
「何処へ行くんです、愛しい人」
そう、声をかけられた直後、体に衝撃。
馬上から体当たりで落とされたのだと、反射で受身を取って跳ね起きながら知った。
目の前には、同じように飛び降りたアルフレッドが立ち上がる姿。
二人が乗っていた馬は、良く訓練されているが故に走り去りはせず、主たちを少し遠くで見守っている。
「会いたかったの、アルフレッド。でも、いきなり突き飛ばすのは酷くない?」
「すみません、アンジェラ。でも、僕に会わずに逃げるっていうのも酷くない?」
二人は顔を見合わせて笑いあい……まったく同じタイミングで、剣を抜き切り結んだ。
それは真剣な命の取り合いで、互いに本気で相手の急所を狙った致死の一撃を放ちあっているにもかかわらず、二人の表情は子供のように輝いていた。
「アンジェラ、一つ御願いがあります」
剣戟の音に紛れぬ強さで、アルフレッドが叫ぶ。
「僕の妻になってください!」
唖然としたアンジェラは、彼の剣に獲物を弾き飛ばされる。
そのまま彼女を組み敷いたアルフレッドは、にんまりと笑った。
「返事をくださいますか?」
組み敷かれた彼女は、自分の上にあるアルフレッドの顔を見上げ、不満げに唇を尖らせた。
「ずるい、不意打ちなんて」
「それが実戦ってものだろ? ねぇアンジェラ、僕の妻になってくれるよね?」
「本気なの?」
「本気だよ。昼はこうやって戦って、夜は一緒に眠るんだ。すごく素敵な毎日だと思うんだけど」
「だって、あたしはただの傭兵だし、あなたは王子様じゃない」
「関係ないよ。僕は前例第一号になろうと決めたんだからね」
尖らせた彼女の唇にキスを落とすと、彼女はぽっと頬を赤らめた。
「……本当にいいの?」
「アンジェラでなけりゃ嫌なんだ。アンジェラは、僕が嫌い?」
「好きよ、大好き。貴方が私以外の誰かに殺されるなんて許せないくらい好き」
アンジェラは真剣に答えた。
「僕もだよ。だから、僕達は一緒に居るべきだと思うんだ。……アンジェラ、OKしてくれる?」
はにかんだように微笑んだ彼女は、こっくりと頷いた。
父である王に対して、彼女の身柄を「戦利品」として貰い受ける約束を取り付けていた王子は、愛しくて愛しくて仕方ない彼女と今日も今日とて本気の切りあいを繰り広げている。
そう宣言されたのは、戦が完全に終結する2回前の戦場でだった。
雇い主が負けたことを悟ったアンジェラは、敗走に徹した。
傭兵の彼女にとって、雇い主は金づるであって主君ではなく、忠義なんていうものはない。
このまま戦場に残っても、金がもらえるわけでもなく、残党狩りに会うだけ。
勿論それで負けるアンジェラではないけれど、無駄な人殺しをするのは面倒だった。
前金を抱えて戦場となった平野から逃げる最中、彼女は最後に彼と戦えなかったことを悔いる。
戦いたかった。
金の髪を持つ、愛しい人と、最後に。
もう会えないのだと思うと泣けてくる。
じんわりと浮んでくる涙を拭って、アンジェラは平野から近くの町へ抜ける森を駆けた。
だが、そんな彼女に追っ手がかかる。最も多くの者を斬った彼女が、追われぬはずがなかった。
追いすがる者を斬り捨てながら、女は心の片隅で彼が追って来てくれることを望んでいる。
そして、その望みは叶えられた。
「何処へ行くんです、愛しい人」
そう、声をかけられた直後、体に衝撃。
馬上から体当たりで落とされたのだと、反射で受身を取って跳ね起きながら知った。
目の前には、同じように飛び降りたアルフレッドが立ち上がる姿。
二人が乗っていた馬は、良く訓練されているが故に走り去りはせず、主たちを少し遠くで見守っている。
「会いたかったの、アルフレッド。でも、いきなり突き飛ばすのは酷くない?」
「すみません、アンジェラ。でも、僕に会わずに逃げるっていうのも酷くない?」
二人は顔を見合わせて笑いあい……まったく同じタイミングで、剣を抜き切り結んだ。
それは真剣な命の取り合いで、互いに本気で相手の急所を狙った致死の一撃を放ちあっているにもかかわらず、二人の表情は子供のように輝いていた。
「アンジェラ、一つ御願いがあります」
剣戟の音に紛れぬ強さで、アルフレッドが叫ぶ。
「僕の妻になってください!」
唖然としたアンジェラは、彼の剣に獲物を弾き飛ばされる。
そのまま彼女を組み敷いたアルフレッドは、にんまりと笑った。
「返事をくださいますか?」
組み敷かれた彼女は、自分の上にあるアルフレッドの顔を見上げ、不満げに唇を尖らせた。
「ずるい、不意打ちなんて」
「それが実戦ってものだろ? ねぇアンジェラ、僕の妻になってくれるよね?」
「本気なの?」
「本気だよ。昼はこうやって戦って、夜は一緒に眠るんだ。すごく素敵な毎日だと思うんだけど」
「だって、あたしはただの傭兵だし、あなたは王子様じゃない」
「関係ないよ。僕は前例第一号になろうと決めたんだからね」
尖らせた彼女の唇にキスを落とすと、彼女はぽっと頬を赤らめた。
「……本当にいいの?」
「アンジェラでなけりゃ嫌なんだ。アンジェラは、僕が嫌い?」
「好きよ、大好き。貴方が私以外の誰かに殺されるなんて許せないくらい好き」
アンジェラは真剣に答えた。
「僕もだよ。だから、僕達は一緒に居るべきだと思うんだ。……アンジェラ、OKしてくれる?」
はにかんだように微笑んだ彼女は、こっくりと頷いた。
父である王に対して、彼女の身柄を「戦利品」として貰い受ける約束を取り付けていた王子は、愛しくて愛しくて仕方ない彼女と今日も今日とて本気の切りあいを繰り広げている。
5/5ページ