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敵同士の恋5題

 自陣の寝所にしている天幕に戻ったアルフレッドは、固い簡易寝台に寝転がって恋しい女の事を思った。
 黒い髪と黒の眼、白い肌を持つ女。
 鮮烈な剣技と体捌きを身に付け、唯一アルフレッドに対抗できる女。
 アルフレッドは、彼女の事をアンジェラという名前と死神という二つ名以外何も知らない。
 けれど、そんな情報より何より、重要なのが彼女が自分と同じ存在であり、彼女と打ち合うことが何より楽しく快感であるという事だった。
 別に彼としては今の状態で不満はないのだが、戦は永遠には続かない。
 恐らく、このまま行けば自国の勝利に終わるだろうこの戦。初めて彼女に会った時を除き、彼の国が勝利を収めてきている。
 彼女と剣を戦わせられるのも後幾度か。
 それが残念でたまらない。

 初めて会ったときといえば、彼女に触れたのもあの時だけだった。
 一度だけの口付け。
 それ以来、彼は彼女に触れていない。
 彼とて男なので、彼女に触れて色々とどうこうしたい欲求は少なからずある。
 というか、むしろ自分の子供産んでくれないかなーくらい考えている。
 したいことはその前段階だけれども。
 ふと思い立って、王子は従者に声をかけた。
 ひっそりと天幕の片隅にいた従者は、びくびくしながら答えた。けして人間的に悪い人じゃないとわかっているのだが、「血の狂王子」はやっぱりちょっと怖かった。
「あのさー、敵の傭兵を俺の奥さんにしちゃだめかなー」
 それがあんまりにも暢気な言い方だったので、従者の脳味噌に伝わるにはちょっとだけ時間がかかった。
「だだだだめですよ! そんなのまずいですよ!」
「うーん、やっぱりそういう反応か……」
 天幕の天井を見上げながら、王子は考えた。
 誰に反対されようと、曲げるつもりはなかった。
 一国の王子と、敵国の傭兵の娘が、けして結ばれるはずもないと誰が決めた。
 前例第一号になってやる、と王子は心に決めた。
 身分の差なんてくそくらえだ。

 「敵国の」というところが一番拙いのだと気付かないまま、王子はいかにしてアンジェラを自分の妻とするかの計画を練っていくのだった。
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