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敵同士の恋5題

 アンジェラは道ならぬ恋をしている。
 何せ、自分が雇われている国の敵国の王子に恋をしてしまったのだから、これを道ならぬ恋と呼んで何が悪い。
 彼女は物見やぐらの上で、敵陣を見据えて切ない溜息を零した。
 別にこの戦で雇い主が勝とうが負けようが、傭兵であるアンジェラにたいした意味はない。勿論勝てば報奨金が大盤振る舞いだろうから、懐が暖かくはなるが。
 そういう意味では、負ければきっとただではすまないだろうかの国の王子の為に、負けてしまいたい気がする。
 けれど、積極的に負けてしまえといえないのは、勝敗が決してしまえば、かの王子と二度と剣を合わせることが出来ないからだ。
 アルフレッド、と彼女は愛しい人の名を呼んだ。
 脳裏に浮ぶのは輝くような金の髪と、濁ることのないブルーアイ。土色の景色の中で、その二色は即座に彼女の眼を引く。
 確かに貴公子然としたその姿は美しいが、アンジェラは何よりその剣技と自分に真っ直ぐ向けられる純粋な殺意と好意のこもった眼が一等素敵だと思っていた。
 その視線が向けられるときが、愛されていると感じる瞬間だ。

 ああ、なんであなたは王子なのかしら。同じ傭兵なら何処かでまた会えるかもしれないのに。

 相手が王子なんていう捨てることの許されない立場であることが恨めしい。
 王位継承権は相当下で、玉座には程遠い位置に居るらしいが、あれだけ敵を殺していくつも首級を取っていれば救国の英雄だろう。国を離れることは出来まい。
 ……救国となるか、亡国となるかはまだわからないけれど。
 ああ、なんてついてない。初めて子供を産んでもいいかも、とか思った相手が王子様だなんて。
「いやだ、あたしったら子供だなんてっ」
 一人で考えて、一人で恥じらい、一人で顔を紅くする。
 アンジェラが物見やぐらの上で恋する乙女になっている姿を、他の傭兵や兵士達は気味悪げに見上げていた。
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