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敵同士の恋5題

 邪魔な人間を片っ端から斬り殺しながら、アルフレッド王子は一人の人間を探していた。
 それは部下でもなく、守るべき人でもなく、ただ戦うべき人。
 彼が、ただ一人愛しいと思う女。

 この戦場で戦うのはもちろんの事彼だけではなく、数え切れない人間が己の腕と武器で戦い、殺し、死んでゆく。
 その剣戟の向こうに、彼は目当ての人を見つけた。
 自分と同じように、血と死を撒き散らしながら進んでくる一人の女。
 死神と渾名される傭兵、アンジェラ。
 アルフレッドは、その姿に酷く嬉しそうに目を細めた。

 彼女に向かって馬を駆る。
 血に濡れた彼女は美しい。漆黒の髪と白い肌に血の赤は良く映える。
 彼女は戦場で最も輝く女だ。
 舞うように剣を振るい、表情一つ変えずに敵を屠る。
 本当は、ずっとその様を見ていたい。
 でも駄目だ。
 今、彼女の眼に自分が映っていない。
 彼女の眼に、自分以外が映るなんて許せない。
 だから、アルフレッドは馬を駆る。
 彼女と剣を交える為に。
 彼女の眼に自分を映す為に。

 交差した剣が悲鳴のような声を上げる。
「こんにちは、愛しい人。御機嫌はいかがですか?」
 状況にそぐわない言葉。彼の腕は彼女の剣を打ち負かそうと力を込めている。
 だが、彼女はその二つのどちらもまったく不思議には思わない。
 同じ力で刃を拮抗させながら、うっとりと微笑む。
「今、良くなったわ。私のアルフ」
 無表情だった女の顔に、表情が浮ぶ瞬間。
 この瞬間が、堪らなく好きだった。
 同じような表情で微笑みながら、アルフレッドは命を奪うための刃を振るう。
 そして、アンジェラもまた。

 周囲を敵も味方もなぎ倒しながらの二人の逢瀬は、これ以上ないほどはた迷惑。
 ただ剣戟の向こう側にだけ、彼らの愛はあるのだった。
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