このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

敵同士の恋5題

 今日も今日とて、二人は嬉々として戦場へ繰り出していく。


 ニ十数人居る王子の、下から数えた方が早い位置に居るアルフレッド王子は、それでも祖国に名を轟かせていた。血の狂王子という二つ名と共に。
 人を殺すことだけは誰よりも上手かった彼は、ある日一人の女に恋をした。

 生まれたときから人を殺す手段だけを教え込まれてきた。
 特に其れが嫌でもないし、苦しいと思ったことも無い。
 人を殺すことに特に感情の動かない、アンジェラはそういう人だった。
 傭兵としていくつもの戦場を渡り歩いていた彼女は、ある日一人の男に恋をした。


 血が飛沫き、腕や首が飛び、臓物が撒き散らされる戦場で。
 辺りに恐怖と絶望をもたらす二人が出会った。
 視線が合い、次の獲物はコイツだと、刃を交わした。
 初めてだった。
 互いに、10合以上打ち合って首が飛ばない相手は。
((こいつ、強い……!!))
 二人は笑う。
 強い相手と、対等の相手と戦うことを何よりも好む獣の顔で。
 そして悟る。
 互いが、同じ存在であると。
 生きた災厄となった二人に近付く者は皆剣戟の合間に殺され、何時しか彼らの周りに人はなくなった。
 何十、何百と剣をあわせ、それでも決着は付かない。
 その二人を引き離したのは、戦の終結を告げるラッパだった。
「……この戦はこっちの負けらしいな」
「そうみたいね」
 初めて交わした言葉はそれ。
 アルフレッドはにやりと笑い、鍔ぜり合いに持ち込む。
「お前、名前は」
「アンジェラ。あんたは?」
「アルフレッド。アンジェラ、また次の戦で会おう」
 そう言って身を翻した男を、女は追わなかった。
 奪われた唇を片手で覆って、眼を白黒させていたから。


 何処にでもある戦場の、その血煙の中。
 一つの小さな、そして物凄く物騒な恋が生まれたことを、この時知るのは二人だけだった……。
1/5ページ
スキ