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それを幸福と言う

「……汐深」
 ひっそりと。
 囁く声に、汐深は眼を覚ます。
「ん……? くれ、は?」
 半覚醒の視界に映る愛しい人は、ぼんやりと定かでなく。けれど、確かに彼だと分かるから、汐深はふわりと微笑んだ。
「おかえ、りー」
 ここは汐深の家で、紅葉の家ではないのに、彼の姿があることに微塵の疑問も感じていない様子に、甘く甘く幸せが滲んでくる。
「ただいま。……隣に、入ってもいいかい?」
「んー……」
 夢心地のまま、汐深はもぞもぞと動いて紅葉の入る場所を空ける。そこに滑り込むと、ぴとりと温かい肢体が絡みついてくる。
「冷た……」
「うん、ごめんね」
 冷たい、と顔を顰めながらも、汐深は更にぎゅぅっと抱きつく。
 彼女の体は温かくて、彼女がずっと眠っていた布団も温かくて。
 ああ、なんて幸せなんだろうと、すでに目を閉じて夢の世界へ旅立ちかけている汐深の額にキスをする。
 ふにゃり、と彼女が笑って。
 そして二人で、温かな布団でぐっすりと。

 ぱちりと眼を開けた汐深は、直ぐ側で眠る最愛の人の顔に表情を和ませる。
 微かにしか記憶はないけれど、どうやらそれも夢ではないらしい。
 今日は休日なのだから、この二人でぬくぬくとした布団の中でもう少し微睡むのも悪くない。
 恋人の穏やかな寝顔を見ながら、汐深はその腕の中に埋もれるように抱きつき、目を閉じた。
 今度は、君の夢が見れればいい。
 夢の中でも、眼が覚めても其処に貴方が居るなんて、ああ、なんてなんて素晴らしい幸福。
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